月に囚われた男

原題は「MOON」

 あまりにも単純なタイトルなので似たような映画がいくつかあるけど、邦題は「月に囚われた男」というタイトルがついている。2009年のイギリス映画で日本では2010年に公開された。アバター、第9地区、ドラえもん のび太の人魚大海戦アリス・イン・ワンダーランド、名探偵コナン 天空の難破船、クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁なんかに囲まれてすっかり目立たないまま終わってた。iTunesで販売が始まったので購入。

 核融合発電の燃料であるヘリウム3を採掘するために建設された月面基地。採掘機は自動で運行するので基地には採掘機を管理する男がひとりいるだけ。男は3年間の契約でこの基地にひとりで生活している。他には相棒として対話型ロボットが1台いるだけ。月面基地にたったひとりで3年間というのはかなり長い。妻から届いたビデオレターを何度も見返す日々。最近はときどき幻覚にも悩まされる。しかしそれもあと2週間で終わる。その3年の契約が終わろうとしていたある日、男は採掘機の点検中に事故を起こしてしまう。気がつくと基地の中の医療ベッドにいた主人公。ところが目の前に自分そっくりな男がいる。何かが変だ。

 舞台は男がたったひとり生活する小さな月面基地。CGなんてたいそうなもんは使ってない。ミニチュアとセットを活用した古き良き時代のSF映画は「2001年宇宙の旅」「スターウォーズ」を思い起こさせるB級感たっぷり。これがたまらなくイイ。いっしょにいる対話型ロボットもHAL9000の雰囲気をかもしだしていてうれしい。

 登場人物は月面基地にいた男と突然登場する自分そっくりな男の2人。つまりこの映画はほぼ全編1人芝居。主人公を演じる役者は3年の基地暮らしで疲れきった男と突如現れた颯爽と精悍な体つきの男を実にうまく演じ分けている。2人のかけあいも合成とは気づかないほど映像も演技も自然に重なっているので観ているこちらは余計なことを気にせずこの不可解な状況に没入できる。彼はいった何なのか? 3年の契約期間とは何なのか? サスペンス!!もうこれぞ往年のSF映画!!久しぶりにワクワクドキドキ。

 登場人物はたった2人。舞台は閉鎖空間。これは舞台演劇にぴったりだ。ああ、20年前にこんな脚本があったらやってみたかったなあ。