「化粧品」カテゴリーアーカイブ

5 界面活性剤 / 化粧品の成分

親水基と疎水基(親油基)で構成される両親媒性化合物が「界面活性剤」である。

界面活性剤の分子構造概略図

親水基は水に溶けようとし、疎水基(親油基)は油に溶けようとするため、水と油が共存する系では、界面活性剤は自然と水と油の界面に集まる。水と油の境目に勝手に集まるこの性質は界面活性剤の最大の特徴である。

界面活性剤の性質
(水と油の境目に自然と集まって膜を作る)

水と油の界面に集合した界面活性剤は遠目に見れば片面が親水性、もう片面が親油性の性質を持った1枚の薄い膜とみることができる。界面活性剤は水と油の境目に勝手に集まり薄膜を形成し、水と油を分けた状態にできる。

5.1 界面活性剤と乳化

水と油が共存する系を強く攪拌すると混合状態になる。セパレートタイプのドレッシングを強く振り混ぜた状態と同じである。ところが、この混合状態はすぐに元の分離状態へ戻ってしまう。その理由と、混合状態が長く維持される乳化現象について説明する。

水分子と水分子の間には水素結合による強い引力が働くが、水分子と油分子の間にはほとんど引力は生じない。

水分子同士には図中の黄線のような互いを引き寄せる力(水素結合)が働く
水油混合系の簡易シミュレーション。
水分子-水分子間には引力が働くが、水分子-油分子間には引力も反発力も生じない。

このため水分子同士が集まろうとし、油分子は結果的に押し出される格好となり、水と油に分離する。なお、水分子-水分子間力と水分子-油分子間力のように2つの分子間力に大きな差がある状態を「界面張力が高い」と表現する。

水分子同士だけが集まろうとして結果的に油は押し出される。

さて、水と油を強く攪拌して混合状態にしたところに今度は界面活性剤を加えた場合はどうなるだろうか。界面活性剤は水と油が共存する系では自然とその界面に集合して膜を形成するので、界面活性剤は油滴の表面(水と油の界面)に集合して膜を形成する。

界面活性剤が水と油の界面に集合して膜を形成する

水と油の分離は、水分子-水分子間の引力と水分子-油分子間の引力の差が大きいことに起因している(水同士だけが集まろうとする力で油が押し出される)ことは先に述べたとおりである。しかし、界面活性剤が水と油の界面に集合して膜を形成すると水と油が分断され、状況が大きく変わる。水分子-水分子間の引力と比較する相手が、水分子-油分子間の引力ではなく、水分子-界面活性剤(の親水基)間の引力に替わる。界面活性剤の親水基部分は水素結合性を有する構造(水に溶けやすい構造)なので、水分子と界面活性剤の間にも水素結合が生じる。

水分子と界面活性剤の親水基との間には水素結合が生じるので界面張力が低下する。

水分子-界面活性剤(の親水基)間にも引力が働くため両者の力の差は小さくなり、水と油の混合状態が安定化する。水分子-水分子間の引力と水分子-界面活性剤(の親水基)間の引力のように分子間力の差が小さい状態を「界面張力が低い」と表現する。

もともとは混ざり合わない2種の液体が長時間均一に混ざった状態を「乳化」という。界面活性剤は水と油の間に両親媒性の膜を作ることで界面張力を低下させ、長時間にわたって水と油が均一に混合した乳化状態を作ることができる。2種の液体が均一に混ざった状態を長時間維持できる界面活性剤のこの性質は、化粧品において「洗浄」「乳化」「分散」といった役割を果たすために活用される。

ちなみに、油分子同士の間にはほとんど引力は生じないのだが、水と油が分離する様子は、油分子同士にもなにか引力のようなものが働いているかのようにも見える。実際には水分子同士の引力によってただ押し出されているだけで油分子同士に何の相互作用もないにも関わらず、水の存在下では油同士にも引力が発生しているかのように見えるこの現象を「疎水性相互作用」という。

5.2 界面活性剤の種類

界面活性剤は、親水基のイオン性によって4種類に分類されており、それぞれ特徴的な性質があり、その特徴を活かした使われ方をしている。

  • 親水基がマイナスイオンになっている界面活性剤:アニオン界面活性剤(陰イオン界面活性剤)
  • 親水基がプラスイオンになっている界面活性剤:カチオン界面活性剤(陽イオン界面活性剤)
  • 親水基がpHによってマイナスになったりプラスになったりする界面活性剤:両性界面活性剤
  • 親水基がイオン化しない界面活性剤:ノニオン界面活性剤(非イオン界面活性剤)

5.3 アニオン界面活性剤

親水基がマイナスイオンになっている界面活性剤を総称してアニオン界面活性剤という。主にカルボキシ基(-COOH)、硫酸基(-SO4H)、スルホン酸基(-SO3H)を有し、ナトリウムまたはカリウムとイオン結合している化合物が使われる。水に溶解した時にナトリウムまたはカリウムがプラスイオンになって電離し、反対側の部分がマイナスイオンを有する界面活性剤になる。両親媒性ではあるがイオン性をもつため水への溶解性が非常に高いのが特徴で、その性質を活かして水の中にすばやく油汚れを混合して洗い流す洗浄剤として使われることが多い。

5.3.1 高級脂肪酸アルカリ金属塩(石ケン)

高級脂肪酸ナトリウム塩(石ケン素地)
水中では右のように電離してアニオン界面活性剤になる
高級脂肪酸カリウム塩(カリ石ケン素地)
水中では右のように電離してアニオン界面活性剤になる

高級脂肪酸アルカリ金属塩は「高級脂肪酸+アルカリ金属」の構造を持つ、一般には「石ケン」と呼ばれている化合物の総称である。アルカリ金属はほとんどの場合ナトリウムまたはカリウムである。水に溶解させると負に帯電した高級脂肪酸部分と正に帯電したアルカリ金属イオンに電離する。このとき生ずる負に帯電した高級脂肪酸部分がアニオン界面活性剤である。

工業的には高級脂肪酸を水酸化Naまたは水酸化Kで中和して製造する方法(中和法)と油脂を水酸化Naまたは水酸化Kでアルカリ加水分解して製造する方法(ケン化法)の2つがある。

中和法による石ケンの合成
高級脂肪酸1分子に水酸化ナトリウム1分子を反応させると中和反応によって石ケン1分子と水1分子が生成する。
ケン化法による石ケンの合成
油脂1分子に水酸化ナトリウム3分子を反応させるとアルカリ加水分解反応によって石ケン3分子とグリセリン1分子が生成する。

中和法で製造した石ケンは、ラウリン酸Na、ミリスチン酸K、パルミチン酸Na、ステアリン酸Kなど化学名と同等の表示名称が使われることが多い。

一方、ケン化法で製造した石ケンは使用する油脂によって生ずる高級脂肪酸の種類や比率はまちまちでステアリン酸、ラウリン酸など具体的な高級脂肪酸の名称を用いることが困難である。そのため具体的な脂肪酸の種類を特定せず元となった油脂の名称を使ったパーム脂肪酸Na、ヤシ脂肪酸Na、オリーブ脂肪酸K、ヤシ脂肪酸Kといった総称が使用される。

また、製造法によらずナトリウム塩の石ケンを総称して「石ケン素地」、カリウム塩の石ケンを総称して「カリ石ケン素地」という表示名称もあり、さらにそれら全てを総称する「カリ含有石ケン素地」という表示名称もある。「石ケン」という文字は安心感があるため、化学物質風の名称を嫌う消費者に向けた商品ではこのような総称がよく使われる。ただし、これら石ケン成分の総称は日本独自のもので、海外で多く使われている成分名(INCI名)には存在しないため、輸出の際の全成分リスト(INCIリスト)作成には注意が必要である。

石ケンの製造方法と表示名称

石ケンは、弱酸と強塩基の塩なので、その水溶液は弱アルカリ性を示す。石ケンの水溶液に酸を加えてpHを中性や酸性にすると石ケンの電離平衡がずれて高級脂肪酸が油塊として析出する。これでは界面活性剤ではなくなってしまうため、石ケンを配合する化粧品は弱アルカリ性で設計する必要がある。

5.3.2 N-アシルアミノ酸塩(アミノ酸系)

N-アシルアミノ酸塩
高級脂肪酸 + アミノ酸 + ナトリウムまたはカリウムが結合した構造

アシル基(R-CO-)がアミノ酸の窒素原子(N)に結合した構造とみなしてN-アシルアミノ酸塩という分類名称になっているが、視点を変えて「高級脂肪酸+アミノ酸+アルカリ金属」の構造とみた方が石ケンや他のアニオン界面活性剤の分子構造と比較して理解しやすい。実際、工業的には高級脂肪酸塩化物にアミノ酸を反応させる合成法がある。また、N-アシルアミノ酸塩よりは一般には「アミノ酸系界面活性剤」と呼ばれることが多い。

アミノ酸構造によってpKaが酸側に存在するため弱酸性でもアニオン性を維持できるものが多いのが石ケンと比べた時の最大の特長である。そのため石ケンでは不可能であった弱酸性の商品を設計することもN-アシルアミノ酸塩では可能である。人の皮膚表面のpHは弱酸性であるため、弱酸性の洗浄料は肌に優しいという印象を多くの消費者が抱いており、その設計に必要となるN-アシルアミノ酸塩も肌に優しい界面活性剤という印象を持たれている。

化粧品でよく使われるアミノ酸系界面活性剤として、ステアロイルグルタミン酸Na、パルミトイルサルコシンNa、ココイルグリシンKなどが有名である。

ステアロイルグルタミン酸Na
パルミトイルサルコシンNa
ココイルグリシンK
ココイルメチルタウリンNa

なお、タウリンは栄養学分野でアミノ酸に分類されているが、化学ではアミノ酸には分類されない(カルボキシ基とアミノ基を有する有機化合物をアミノ酸と定義しているのでカルボキシ基をもたないタウリンは化学分野でアミノ酸に分類されない)。N-アシルメチルタウリン塩はスルホン酸基を有したアニオン界面活性剤でありその性質からもスルホン酸塩に分類した方がわかりやすいが、消費者には化学的性質よりもアミノ酸という文字のもつ安心感が重要であるため栄養学での分類を準用してアミノ酸系界面活性剤としていることが多い。

5.3.3 硫酸塩、スルホン酸塩

硫酸基やスルホン酸基のようなイオウ原子を核にしたアニオン性官能基を持つアニオン界面活性剤。カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価カチオンと不溶性の金属錯体を形成しにくい(耐硬水性に優れる)のが最大の特徴で、その特性を活かして毛髪用洗浄料の洗浄剤としてよく使われている。

高級脂肪酸アルカリ金属塩(石ケン)は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価カチオンと金属錯体を形成して不溶性の固形物(石けんカス)に変化する。カルシウムイオンやマグネシウムイオンはさほど珍しいものではなく、天然水にも水道水にも含まれていて一般に「ミネラル分」と呼ばれている。石けんを洗い流すために多量の水をかけると、水に含まれるミネラル分と石ケンが結合して石けんカスが生じる。石けんが付いたタオルを風呂桶で洗っていると白い粉状の物質が浮いてくることがあるが、あれが石けんカスである。

石ケンとカルシウムイオンによる金属錯体
(水に溶けない固形物で、石けんカスとも呼ばれる)

石けんで顔や体を洗った場合にも石けんカスは生じて一部は肌表面に付着するが、洗い上がり後に若干つっぱり感を生ずる程度でほとんど認識されることはない。しかし毛髪の場合には毛髪表面に細かく付着して極端に指通りが悪くなり洗い流しが困難になったり、指やクシが引っかかり毛髪を痛めたりする。そのため毛髪の洗浄に石ケンは適さない。

そこで毛髪の洗浄用にはミネラル分を多く含む水(硬水)を使っても石けんカスを生じにくい界面活性剤が必要となる。このような性質を持つアニオン界面活性剤として、ラウレス硫酸Na、オレフィン(C14-16)スルホン酸Na、ココイルメチルタウリンNaといった硫酸塩系・スルホン酸塩系の界面活性剤が開発された。これらは耐硬水性のアニオン界面活性剤として毛髪洗浄料を中心に用いられる。

ラウレス硫酸Na
オレフィン(C14-16)スルホン酸Na
ココイルメチルタウリンNa

5.3.4 アニオン界面活性剤の使い分け

国内では古くから使われ続けている安心感から洗浄剤に石ケンを好む消費者が多い。そのため顔用や体用の洗浄料では多くの商品で石ケンが使われている。また「アミノ酸」「弱酸性」という言葉の安心感からN-アシルアミノ酸塩もよく使われる。一方で、硫酸塩・スルホン酸塩は成分名がいかにも化学物質然としていることや、硫酸塩・スルホン酸塩を危険視することで相対的に石ケンやアミノ酸系界面活性剤の良さを強調しようとするマーケティング手法もあって、消費者ウケがあまり良くない。そのため硫酸塩・スルホン酸塩は耐硬水性が極めて重視される毛髪用洗浄料への使用に偏っている。

このように国内では顔・体は石ケンおよびアミノ酸系、毛髪は硫酸塩またはスルホン酸塩といった使い分けが多い。ところが、欧州など水の硬度が高い国や地域では、顔や体を洗浄する際にも石ケンでは石けんカスの発生が顕著に現れて洗浄料として機能しにくいため、顔用や体用でも硫酸塩またはスルホン酸塩などの耐硬水性アニオン界面活性剤を使った製品が多い。そのため欧州などでは顔、体、髪問わず石ケンを使用した洗浄料は少ない。国内でも、顔、体、髪問わず使える洗浄料として硫酸塩またはスルホン酸塩の界面活性剤を主体にした洗浄料が販売されている。

5.4 カチオン界面活性剤

親水基がプラスイオンになっている界面活性剤を総称してカチオン界面活性剤という。プラスイオンになる構造として4級アンモニウム塩構造を有する化合物がよく使われる。

アニオン(マイナスイオン)界面活性剤の代表例である石ケンに対して、カチオン(プラスイオン)界面活性剤はマイナスとプラスが逆という意味で「逆性石ケン」と呼ばれることもある。

水に溶けるときに右のように電離してプラスイオンを生ずる

プラスイオンを有することから静電気を中和する「帯電防止剤」としての使われ方が多い。また、カチオン界面活性剤の中には殺菌力に優れる成分もあり、そういった成分は「殺菌剤」として薬用石鹸や手指消毒剤に使用される。

5.4.1 帯電防止剤

プラスイオンが静電気を電気的に中和するので、カチオン界面活性剤は静電気を防ぐ「帯電防止剤」としてヘアケア製品で使われることが多い。ステアルトリモニウムクロリドやベヘントリモニウムクロリドといった塩化物が多いが、ステアルトリモニウムブロミドといった臭化物もある。

ステアルトリモニウムクロリド
ベヘントリモニウムクロリド

ヘアトリートメントの設計では、乳化に「界面活性剤」、帯電防止作用に「カチオン化合物」、髪に塗布しやすい適度な硬さを出すために「増粘系」の3つが必要である。カチオン界面活性剤はある種の高級アルコールと組み合わせるとゲル構造形成による増粘作用を発揮することが知られている。そのため1つの成分で「乳化剤」「帯電防止剤」「増粘剤」の3つの働きを一つの成分で担える(増粘作用は高級アルコールとの組み合わせで発揮する)カチオン界面活性剤は、ヘアトリートメントの設計をシンプルにまとめるのに非常に有効であり、カチオン界面活性剤と高級アルコールの組合せは古くからヘアトリートメント設計の定番中の定番である。

ノンパラベン、ノンシリコーン、ノンカチオンに代表されるように、定番の設計手法をあえて外すことで、他にない特別な化粧品にみせる差別化手法がある。パラベンが、シリコーンが、カチオンが肌に合わない人にとってそれぞれの化粧品はまさに特別な化粧品として一定の需要がある。しかしそのような特別な設計を必要としていない人にまで対象を拡大しようとして、定番の設計手法があたかも多くの人にとって悪いことであるとする情報も同時に出回っている。若い技術者がこのようなマーケティング情報に踊らされて基礎技術や定番設計を習得する機会を自ら不要とするのは非常に残念である。定番設計はなぜ定番なのか、先人が積み上げてきた安心安全安定思想に基づく技術蓄積は大切にしてほしい。

5.4.2 殺菌剤

ベンザルコニウムクロリドなど一部のカチオン界面活性剤には高い殺菌力を有するものがあり手指消毒製品の有効成分として使われている。

ベンザルコニウムクロリド

4級アンモニウム塩に殺菌作用があることはかなり古くから知られており、その中でもベンザルコニウムクロリド(医薬部外品では「塩化ベンザルコニウム」)は安全性と殺菌性のバランスに優れた成分として長年使われている。

5.5 両性界面活性剤

親水性基の電荷がpHや他のイオン性化合物の存在によって変化する界面活性剤を総称して両性界面活性剤という。アルカリ性側(水素イオン濃度が低い)ではアニオン界面活性剤として、酸性側(水素イオン濃度が高い)ではカチオン界面活性剤としての性質を示す。

幅広いpHでイオン性界面活性剤としての性質を有し、耐硬水性にも優れることからシャンプーや皮膚洗浄料の洗浄剤として、また乳化助剤として、さまざまな製品で幅広く使用されている。コカミドプロピルベタイン、ココアンホ酢酸Naが有名である。

コカミドプロピルベタイン
ココアンホ酢酸Na

5.6 非イオン界面活性剤

親水基がイオン化しない界面活性剤を非イオン界面活性剤またはノニオン界面活性剤という。

イオン性をもたないため、pHや他のイオン性化合物による影響をほとんど受けることなく、さまざまな条件で安定した界面活性作用を発揮することができる。そのためさまざまな化合物の存在下で長期間に渡って安定に乳化状態を維持しなければならない乳液やクリームなどの乳化物を設計する際の乳化剤として用いられることが多い。また、非イオン界面活性剤は泡立ちの低いものが多いのでクレンジングジェルや食洗機用洗剤など泡立ってしまうとかえって使いづらくなる洗浄料での洗浄剤として使われることもある。

疎水基の構造には高級脂肪酸がよく使われ、親水基の構造にはグリセリン、糖類、PEGがよく使われる。疎水基にステアリン酸、親水基にグリセリンを用いて両者をエステル化反応で結合させたステアリン酸グリセリルはその典型例である。

非イオン界面活性剤の一般的な構造
ステアリン酸グリセリル
(ステアリン酸とグリセリンをエステル結合させたもの)

非イオン界面活性剤の表示名称は、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ステアリン酸PEG-40、PEG-60水添ヒマシ油といった分子構造を想像しやすい名前が多いが、ポリソルベート60のように表示名称では構造が想像できない成分も一部にはある。

イオン性界面活性剤は強い電荷を有するため親水基と水分子との結合力が強くその結果非常に水に溶けやすいのが特徴である。一方、非イオン界面活性剤の親水基はイオン化していないためそれほど強い水和性がない。そのため、疎水基の構造を少し大きくするだけで親油性の強い界面活性剤を作ることができる。親水基と疎水基の構造のバランスによって親水性の界面活性剤から親油性の界面活性剤まで豊富なバリエーションがそろっているのも非イオン界面活性剤の特徴である。

さまざまな非イオン界面活性剤
(他のイオン性化合物やpHの影響を受けにくい、親水性から親油性までバリエーションが豊富)

非イオン界面活性剤を使った乳化物の調製に関する研究は古くから行われており、非イオン界面活性剤の性質(親水性/親油性)と、乳化物の型(水中油型/油中水型)との関係を経験則としてまとめたHLB法や有機概念図法は乳化物設計における界面活性剤選択の重要な指針となっている。

4 油性成分 / 化粧品の成分

本稿では、化粧品設計の基本となる成分のうち、水に溶解しない成分を油性成分と分類している。化粧品において油性成分は、皮膚や毛髪の保護、つや、化粧品の形状維持、粉体の分散制御などさまざまな目的で用いられる。

化粧品で使用される油性成分はその分子構造によって「炭化水素」「高級脂肪酸」「高級アルコール」「ロウ・ワックス」「油脂」「エステル油」「シリコーン」の7つに分類されている(これ以外に「フッ素系」など特殊なものがいくつかあるが種類も使用例も少ない)。それぞれが分子構造に起因する特徴を有しており、化粧品の設計では目的に応じて使い分けや組み合わせが行われる。

油性成分の分類例

4.1 炭化水素

炭素原子と水素原子のみで構成される分子構造の油性成分が「炭化水素」である。

極性を持たないため他の油と比較して水分子との相互作用が極めて低く、皮膚からの水分蒸散抑制作用に優れる。また、乳化しやすいといった特徴がある。化粧品では炭化水素の中でも酸化安定性に優れた飽和炭化水素が用いられることがほとんどである。

主な成分としてはミネラルオイル、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスといった石油精製物や、サメ肝油やオリーブ果実油から得られるスクワレンを水素添加して飽和化したスクワラン、イソブテンの重合体のポリイソブテンなどがある。

スクワラン

分子量や分子構造によって固体、半固体(ペースト)、液体、気体などさまざまな状態の成分がある。固体の炭化水素はロウ・ワックスと同様に化粧品の硬さ調整や固形化粧品の基材などとして、ペーストや液体の炭化水素は肌からの水分蒸散抑制や化粧品の感触調整などとして、気体の炭化水素は圧縮して液体にしてエアゾールの噴射剤としてなど状態の特性に応じてさまざまな用途で広く使われている油性成分である。

マイクロクリスタリンワックス、合成ワックスは、名称にワックスの文字を含んでいることや、常温で固体で加熱すると溶解するいわゆるワックスと類似の性質であること、実際にワックスと同様の使い方をすることが多いことから間違えやすいが、分子構造は炭素原子と水素原子だけでできているので「炭化水素」に分類される油性成分である。

ミネラルオイル、ワセリンなどの石油精製物は極めて安全性の高い成分でありほとんどの人に軽微な問題すら起こさない。その特徴を活かして塗り薬の基剤やパッチテストの溶媒など極めて高い安全性が求められる場面で使用されている。しかし、消費者の中には石油精製物は安全ではないという印象をもつ人がいる。特に天然や自然という文字に信頼感や安心感を抱く消費者にその傾向があるのは不思議な現象である。石油は人間の手では作り出すことができない天然地下資源、まさに大地の恵みである。大地深くから湧き出す天然水には安心感をもつのに、大地深くから湧き出す天然油(石油)には拒否感をもつのだからわかりにくい。化粧品は理屈だけでは説明できない典型例である。

4.2 高級脂肪酸

高級脂肪酸(炭化水素構造の末端にカルボキシ基)

炭素数がおおむね12以上の炭化水素構造の末端にカルボキシ基(-COOH)が1つある分子構造の油性成分が「高級脂肪酸」である。

主な成分としてラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸といった化学名と同じ表示名称がある。

ラウリン酸
ミリスチン酸
ステアリン酸

さらに、ヤシ油をアルカリ加水分解して得られる高級脂肪酸の混合物「ヤシ脂肪酸」、パーム核油をアルカリ加水分解して得られる高級脂肪酸の混合物「パーム核脂肪酸」、同じく大豆油をアルカリ加水分解して得られる「ダイズ油脂肪酸」といった油脂の名前を冠した表示名称もある。油脂を分解して得られる高級脂肪酸は多くの種類が混在していてはっきりしないため、もととなった油脂の名前を使った総称が表示名称として用意されている。

油脂を分解して製造する高級脂肪酸の混合物は、含まれている脂肪酸の種類や比率を正確には特定できないため元となった油脂の名前を冠した名称で総称する

高級脂肪酸は、水酸化Naや水酸化Kなどのアルカリで中和すると高級脂肪酸金属塩、いわゆる石ケンを生ずるのが特徴である。

高級脂肪酸を単独で化粧品に配合することはあまりなく、上述のように強アルカリで中和して石ケンを製造する原料としてや、粉体表面に結合させて粉体を疎水化する表面処理剤として使用されることが多い。

ほとんどの高級脂肪酸は常温で固体だが、オレイン酸のような不飽和脂肪酸やイソステアリン酸のような分岐脂肪酸の中には常温で液体のものも存在する。

4.3 高級アルコール

高級アルコール(炭化水素の末端に水酸基)

炭素数がおおむね12以上の炭化水素構造の末端に水酸基(-OH)が1つある分子構造の油性成分が「高級アルコール」である。

主な成分としてベヘニルアルコール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、コレステロール、ホホバアルコールがある。

ベヘニルアルコール
ステアリルアルコール
コレステロール

炭素数が多いので油溶性だが末端の水酸基が親水性をもつためごくわずかな両親媒性も有している。このわずかな両親媒性によって高級アルコールはO/W乳化物において非イオン界面活性剤とともに油滴の外部にαゲルとよばれるラメラ液晶構造を形成し乳化物を安定化させることが知られている。外相でのラメラ構造形成とそれによる系の粘度上昇による乳化安定化は乳化物設計に重要で古典的クリーム処方では必ずと言っていいほど高級アルコールが使われる。

また特定のカチオン界面活性剤と高級アルコールの組み合わせでも同様に安定なゲルを形成することが知られており、ヘアコンディショナーの設計では使いやすく安定した硬さをだすために油性成分の大部分を高級アルコールが占める設計が多い。

コレステロールはリポソーム形成において脂質二重膜の安定性向上にも使われている。

ほとんどの高級アルコールは常温で固体だが、種類は少ないもののオレイルアルコールのような不飽和アルコールやイソステアリルアルコールのような分岐アルコールには常温で液体のものも存在する。

4.4 ロウ・ワックス

ロウ・ワックスの分子構造(高級脂肪酸と高級アルコールがエステル結合した構造の化合物が主成分である天然油)

動植物から得られる天然油のうち、高級脂肪酸と高級アルコールのモノエステルが主成分となっている油性成分が「ロウ・ワックス」である。ロウと呼ぶこともワックスと呼ぶこともある。

主な成分としてキャンデリラロウ、カルナウバロウ、ミツロウ、ホホバ種子油、ラノリンがある。

多くは常温において固体で加熱すると溶解する性質を利用して、口紅などスティック状化粧品の基剤として汎用されている。例外的に液状のロウとしてホホバ種子油が、ペースト状のロウとしてラノリンが知られている。ロウ・ワックスはアクネ菌による資化性が低い分子構造であるため、これら非固体ロウは油脂に代わって抗ニキビ化粧品においてニキビを誘発しにくい油性成分として使われることもある。

4.5 油脂

油脂(高級脂肪酸3分子とグリセリン1分子がエステル結合した構造の化合物が主成分である天然油)

動植物から得られる天然油のうち、高級脂肪酸とグリセリンのトリエステルが主成分となっている油性成分が「油脂」である。

主な成分としてマカデミア種子油、オリーブ果実油、アルガニアスピノサ核油、ヒマシ油、シア脂などがある。動植物の名が表示名称にそのまま出てくるので消費者にわかりやすい安心感を与えることもできる。

ヒトの皮脂の半分近くはトリグリセリド(油脂)であるため、油脂はヒトの肌と親和性が高い油とされ、また皮膚柔軟作用(エモリエント効果)のような皮脂と同等の働きをするとも考えられており、肌なじみがよくスキンケア効果の高い油性成分として多くの化粧品に使われる。

脂質平均値(重量%)範囲(重量%)
トリグリセリド41.019.5〜49.4
ジグリセリド2.22.3〜4.3
遊離脂肪酸16.47.9〜39.0
スクワレン12.010.1〜13.9
ワックスエステル25.022.6〜29.5
コレステロール1.41.2〜2.3
コレステロールエステル2.11.5〜2.6
皮脂(皮表脂質)の組成
[D.T.Downing, J.S.Strauss, P.E.Pochi, J.Invest.Dermatol. 53, 322(1969)]

動植物の名が表示名称にそのまま出てくるので消費者にわかりやすい安心感を与えることができるのも油脂の特徴である。

4.6 エステル油

エステル化反応を利用して合成した油性成分の総称が「エステル油」である。単に「エステル」と呼ぶこともある。

安定性、感触、融点、価格など油性成分に対するさまざまな要望に応えるために数多くのエステル油が合成され実用化されている。ロウ・ワックスと同じ分子構造を持った高級脂肪酸と高級アルコールのモノエステル(合成ロウ)、油脂と同じ分子構造を持った高級脂肪酸とグリセリンのトリエステル(合成油脂)、それ以外の分子構造のエステル油の3つに細分化される。

ロウ・ワックスおよび油脂は天然油であるがゆえに分子内の脂肪酸組成が動植物の産地や季節によってブレたり、遊離脂肪酸の残存、その他不純物の残留など品質に不安定要素が多い。また、豊不作によって原料価格が急に上下するといった価格にも不安定要素がある。合成することで品質的にも価格的にも安定した油性成分を入手できるのがエステル油(特に合成ロウや合成油脂)の大きな利点である。また、合成によって天然油にはない特性や高い機能性をもった油性成分をデザインできるのもエステル油の特徴である。

一方でエステル油の表示名称はいかにも化学物質然としているので消費者への訴求力がない。そのため消費者にわかりやすく安心感のある油脂やロウなどの天然油を配合しつつ、製品の品質や価格安定性をエステル油で担保する組み合わせ設計がよく行われる。

エステル油の中で合成ロウに該当する成分として有名なのは、2-エチルヘキサン酸とセチルアルコールのモノエステル「エチルヘキサン酸セチル」である。液状なのでホホバ種子油と同様の目的で使われることが多い。

エチルヘキサン酸セチル
(エチルヘキサン酸とセチルアルコールのモノエステル)

エステル油の中で合成油脂に該当する成分として有名なのは2-エチルヘキサン酸とグリセリンのトリエステル「トリエチルヘキサノイン」。トリエチルヘキサノインは油脂と同様の目的でスキンケア製品で多用される。

トリエチルヘキサノイン
(エチルヘキサン酸とグリセリンのトリエステル)

その他の構造を持った油性成分として有名なのは2-エチルヘキサン酸とペンタエリスリトールのテトラエステルである「テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル」。この成分は顔料分散性に優れるため、ヒマシ油に代わってメイクアップ製品で多用される。

テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル

4.7 シリコーン

ケイ素と酸素の繰り返し構造がシリコーンの基本

前述までの6種類の油性成分はどれも炭化水素構造を主とした成分であるが、シリコーンはこれらと全く異なるケイ素原子と酸素原子の繰り返し構造を主鎖とする非水溶性化合物である。水に対する溶解性がない一方で、炭化水素骨格を主とする他の油性成分との相溶性もあまり高くないものが多いため、シリコーンを油性成分に含めず別枠に分類することもある。あまり細かく分類しだすとキリがないので、本稿では水に溶けないという観点で油性成分にまとめている。

高い安定性と撥水性および他の油性成分とは一線を画す高い滑り性を基本特徴としている。揮発性を有する低分子環状シリコーン、液状の低分子直鎖シリコーン、ペースト状の高分子シリコーン、固形のシリコーン樹脂までさまざまな状態のシリコーンが合成されており、必要に応じて使われている。

ジメチコン
(ケイ素と酸素の繰り返しの長さはさまざま)
シクロペンタシロキサン
(ケイ素と酸素の繰り返しが5回で一周)

また、側鎖にアルキル基やフェニル基、アミノ基などを導入することで乳化特性、皮膜特性、毛髪付着性などさまざまな特徴をもたせたシリコーンも開発されている。

主なシリコーンとして、揮発性を有する低分子環状シリコーンの「シクロペンタシロキサン」、側鎖メチル基の「ジメチコン」、側鎖アミノ基で毛髪付着性を高めた「アモジメチコン」「アミノプロピルジメチコン」などがある。

3 水性成分 / 化粧品の成分

本稿では、化粧品設計の基本となる成分のうち、水そのものおよび水によく溶ける成分を水性成分と分類する。具体的には「水」「エタノール」「保湿剤」がこれに該当する。書籍によっては水とエタノールを水性成分と分類し、保湿剤はこれとは別に分類とする場合や水と保湿剤を水性成分と分類しエタノールは別に分類する場合もある。

3.1 水

うるおいを与えるというスキンケアの基本機能であるうるおいそのものとしての役割の他に、固形成分を溶かして肌に塗布しやすくする溶剤としての役割も担っている。一般的に「精製水」が使用されるが、温泉水や海水のような天然水、ローズ水やラベンダー花水のような芳香水(蒸留によって得られる芳香成分を含んだ水)なども一部で使われる。

3.2 エタノール

C2H5OHの分子構造を持つ化合物。化学名ではエチルアルコールとも呼ばれる。いわゆるお酒に含まれるアルコール分である。微生物に糖蜜などを発酵させて作られる発酵エタノールと、エチレンなどから化学合成によって作られる合成エタノールがあるが、化粧品の製造には一般的に純度がほぼ100%のエタノールが使われるため、発酵法でも合成法でも化学物質としては同じエタノールで違いはない。そのため成分表示名称では両者を区別せず「エタノール」としている。実際の化粧品製造では、品質管理しやすい合成エタノールを使う場合もあれば、「合成」という文字を嫌う消費者への配慮から発酵エタノールを用いる場合もある。

エタノール

エタノールは、安全性、安定性に定評がある上に1つの成分で「溶媒」「清涼」「浸透促進」「防腐殺菌」などさまざまな役割を果たすことができるため、化粧品設計において欠かすことのできない便利な成分である。

一方で、エタノールと接触すると赤く腫れたりかゆくなるなどの症状が出るアルコール過敏症の人もいるので、エタノールをあえて使用しない化粧品ブランドにも一定の需要がある。なお「アルコール」はエタノール、プロパノール、ブタノールなど分子構造中に水酸基(-OH)を含む化学物質の総称だが、食品分野ではエタノールしか使われないため「アルコール」と「エタノール」は同義語として扱われている。そのため食品分野ではエタノールを使用しないことを「ノンアルコール」や「アルコールフリー」などと表現する。しかし、化粧品分野ではエタノール以外にイソプロピルアルコール、ステアリルアルコール、コレステロールなどさまざまなアルコールが使われるため誤解が生じないよう「エタノール不使用」「エタノールフリー」といった表現をすることが多い。また、消費者の側にはエタノールが肌に合わないことをアルコールが肌に合わないと勘違いして、ステアリルアルコールなどの油が配合されている化粧品まで敬遠している人もいる。エタノールが肌に合わないからといってアルコール類全てが肌に合わないとは限らない。

3.3 保湿剤

水分子と結合することで水の蒸発を抑制し、皮膚表面の水分を保持する作用(保湿作用)をもった成分。皮膚表面の水分量を保つことは化粧品、とくにスキンケア化粧品にとって重要な作用であり、保湿剤は化粧品の必須成分と言える。保湿剤と呼ばれるものは主に「分子中に水酸基を有する化合物」「分子中にエーテル酸素を有する化合物」「アミノ酸類」「セラミド類」があるが、本稿では前2つを保湿剤とし、後2つは美容成分として分類する。

3.3.1 水酸基を有する化合物

水分子は、酸素原子の電気陰性度が高いために電荷に偏りがあり酸素原子がわずかに負に、水素原子がわずかに正に分極している。また、アルコールや糖類の分子構造に見られる水酸基も同様に分極している。そのため、水分子の水素原子と水酸基の酸素原子、および水分子の酸素原子と水酸基の水素原子は「水素結合」と呼ばれる弱い結合を形成する。

水分子は水素原子が正に、酸素原子が負に分極している
水酸基(-OH)も水素原子が正に、酸素原子が負に分極している
イソプロパノールと水分子との水素結合のイメージ(水酸基と水分子が水素結合する)

水分子が砂糖のような大きな分子と水素結合すると重りがぶら下がったのような状態となるため、自由な状態の水分子(自由水)と比べて蒸散しにくくなる。砂糖水を放っておくと水の蒸発がある程度のところで止まり、いつまでもベタベタとした状態が続く。これは砂糖と水素結合した水分子が蒸発できずに残り続けるからである。このような方法で水分を保持する働きを化粧品では「保湿作用」といい、そのような働きをする成分を「保湿剤」と分類している。砂糖のように分子構造の中に水酸基(-OH)を有する水溶性化合物の多くが保湿剤に分類される。

3.3.2 エーテル結合を有する化合物

ポリエチレングリコール(PEG)に見られるエーテル結合(-O-)の酸素原子もわずかに分極することから、水分子の水素原子と水素結合を形成する。そのため本稿ではPEGを保湿剤に分類しているが、PEGには増粘効果もあるので増粘剤に分類されることもある。

PEGと水分子の水素結合のイメージ(エーテル酸素が水分子と水素結合する)

3.3.3 アミノ酸

アミノ酸はカルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)のそれぞれが分極しているため強い水素結合性を有しており、保湿剤に分類されることも多い。しかしカルボキシ基はイオン性が強いため多量に配合すると pH を大きく変化させてしまったり他の成分と反応して化粧品の安定性や品質を低下させる原因となりやすいので多量に配合されるものではない。そのこともあり、天然保湿因子(NMF)の主要構成成分であることに着目して肌状態全般の改善を期待して少量配合されるのが化粧品におけるアミノ酸の一般的な使い方なので、本稿ではアミノ酸を保湿剤ではなく有効成分・美容成分に分類して解説する。

アラニンと水分子の水素結合のイメージ(アミノ基とカルボキシ基が水分子と水素結合する)

3.3.4 細胞間脂質

近年の研究によって、角質層の油分(細胞間脂質)も肌からの水分蒸散を抑制することで皮膚の保湿に役立っていることがわかってきた。そのため、細胞間脂質を構成しているセラミドや油脂などの油性成分も保湿剤に分類することがある。この場合、保湿剤を水性成分の中に含めることができないので独立の分類とすることになる。

本稿では古典的な分類に準じて水素結合に基づく水分保持機能を有する水性の保湿剤を「保湿剤」とし、細胞間脂質を構成するセラミドなど油性の保湿剤は「有効成分・美容成分」に分類して解説する。

保湿剤の分類方法

3.4 保湿剤が持ついくつかの作用

保湿剤の重要な働きは文字通り「保湿」であるが、それ以外にもいくつかの作用を持っている。ひとつの化粧品で複数の保湿剤が使われることがあるのは、それぞれの作用に合った保湿剤が選択され組み合わされるためである。ここでは保湿剤が持つ作用のうち「保湿作用」「静菌作用」「感触調整作用」について説明する。

3.4.1 保湿作用

保湿作用が水酸基と水分子との水素結合であるとの前提に立てば、水素結合部位(水酸基、エーテル酸素など)を効率的に含む化合物が高性能の保湿作用を有すると考えることができる。議論を簡略化するためにエーテル酸素が主たる水素結合部位になっているPEGを除外し、各種水性保湿剤の分子量に占める水酸基の割合に着目して整理した結果を次の表に示す。

ソルビトール56.0%
キシリトール55.9%
エリスリトール55.7%
グリセリン55.4%
グルコース(ブドウ糖)47.2%
マルチトール(還元麦芽糖)44.4%
ジグリセリン 40.9%
スクロース(ショ糖)39.7%
BG37.8%
DPG25.3%
ヒアルロン酸Na24.3%
分子量に占める水酸基の比率

ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、グルコースといった糖類が上位を占めているのがわかる。この数値だけで言えば糖類、特にソルビトール、キシリトールが保湿作用に最も優れた成分になるが、糖類は配合量が増えるときしみやベタつきが非常に強く、好ましくない感触になってしまうため化粧品にはそれほど多量には配合できない。いくら高性能でも少量しか配合できないのでは最終商品の性能向上には寄与できない。

水酸基を効率的に有する分子構造であり、多量に配合しても使用感に悪影響を及ぼさない成分として注目されるのがグリセリンである。グリセリンは数十%配合しても不快な感触が出ないことが知られており、さらに安全性、安定性、臭い、価格といった多くの点でも優れた特性を有している。保湿作用、安全性、安定性、感触、価格など総合的に評価するとグリセリンは最も優れた保湿作用を有した成分であるといえる。

グリセリン

このため高い保湿作用を必要とする化粧品の設計には必ずと言っていいほどグリセリンが使用される。国内で販売される化粧水のおよそ9割にグリセリンが配合されている。

また、グリセリンの二量体であるジグリセリンも同様に高配合でも不快な感触が出にくいことから保湿作用に優れた保湿剤として使われている。

ジグリセリン

3.4.2 静菌作用

保湿剤は保湿以外にも化粧品においてさまざまな作用を発揮する。静菌作用もそのひとつである。

多くの微生物は水分の多いところで増殖し、少ないところでは増殖しにくい。湿度の高い浴室よりも乾燥機で湿気を取り除いた浴室にはカビは生えにくいし、水気を多く含む生魚よりも火を通して乾燥させた焼き魚は格段に日持ちが良くなる。このように乾燥によってかびにくくする、腐りにくくすることはよく知られている。その一方で、水分を20%ほど含むにも関わらずハチミツが常温に放置してもかびたり腐ったりしないことも知られている。

別の化合物と水素結合した状態の水分子を「結合水」、自由な状態の水分子を「自由水」と呼ぶ。多くの微生物にとって増殖に利用できるのは「自由水」であり、同じ水でも「結合水」は増殖に利用できない。水に糖分を加えると水の一部は糖分と水素結合して結合水になり、結果として自由水は減る。そのため糖分を約70%含んでいるハチミツは水を含んでいるにも関わらずそのほとんどが結合水となっており、微生物は増殖できない。微生物も生き物であるから寿命がある。増殖できなければ時間と共に微生物は寿命を迎え自然に減少していく。微生物を直接攻撃して死滅させる「殺菌」に対して、微生物の増殖を抑えることで結果的に微生物の数を減らすこの方法は「静菌」(書籍によっては「制菌」)と呼ばれる。自由水を減らすことで食品の保存性を高める静菌は砂糖漬けやシロップ漬けといった保存食としても活用されている。

化粧品でも同様で、水分子と水素結合を形成する保湿剤を多量に加えて自由水を減少させれば比較的水を多く含む化粧品でも少ない防腐剤で必要な保存効力を出すことができる。ただし食品と違い、糖類はきしみやベタつきが非常に強く、好ましくない感触になってしまうため化粧品では自由水を十分減らすほどの量を配合できない。そこで必要な保存効力を発揮する量を配合しても不快な感触にならない保湿剤が求められる。静菌作用と安全性、安定性、感触、価格などのバランスが良好な成分として有名なのがBG、DPG、ペンチレングリコールである。

BG
DPG
プロパンジオール

BGやDPGを化粧品中に30%程度配合するとかなり保存効力を高めることが可能で、条件が良ければ防腐剤を使わなくても品質維持が可能になる。とはいえ保存効力向上という化粧品の本質ではない目的のために30%もの部分を使ってしまうのは、他に必要なさまざまな成分を配合する余地を圧迫することになる。そこで、BG、DPGの配合量は10%程度にとどめて、少量の防腐剤、微生物の混入しにくい容器、使用期限を設けるなど、いくつかの対策と組み合わせて品質を確保する設計が多い。

また、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、カプリルグリコール、エチルヘキシルグリセリンといった、より少量で高い静菌効果が得られる成分の活用も増えてきている。

ペンチレングリコール
1,2-ヘキサンジオール
カプリリルグリコール

ただしこれらの成分は炭化水素構造が大きいため水溶性が低く、界面活性作用による泡立ちや乳化安定性低下、溶解度を超えることによる濁りなど配合にあたって技術的ハードルが高いためBG、DPGほど普及はしていない。

日本では防腐剤に拒否感が強い消費者が多いため、最小限の防腐剤もしくは防腐剤を使わずに必要な保存効力をだせるBGやDPGを活用した化粧品設計が多い。日本的設計を強く意識している中国や韓国の化粧品でもBGやDPGを配合したものが多く出ている。一方で、防腐は防腐剤に任せたほうがいいという考え方が根強い欧米ではBGやDPGを活用した防腐設計の化粧品はさほど多くはない。

3.4.3 感触調整作用

治療を目的とする医薬品と違い、化粧品はいくら数値性能が良くても外観や使用感が不快では使い続ける気にはならない。数値性能に加えて「肌に良いことをしている」「肌がケアされている」という感覚を作り出すことも化粧品設計には必要な要素となる。栄養素という数値性能がいくら良くても不味い料理は食べたいと思わないのと同じである。化粧品や食品は嗜好品であるため「良薬口に苦し」は成り立たない。また「病は気から」のことわざにもある通り、良好な感触の化粧品を使うことで心持ちが良くなることが実際に肌状態に良い影響を与える心理的効果も知られている。医薬品においてはこのような思い込みによる効果をプラセボ効果と呼び、プラセボ効果による治癒と比べ、統計的に十分高い治癒率が出たかどうかでその有効性が評価される。しかし一般的に化粧品では心理的効果も化粧品の効果として広く捉える。気持ちよく使ってもらえる使い心地を設計することも化粧品設計では重要である。

乳液やクリームなど乳化物では、水性成分、油性成分、界面活性剤などさまざまな分類の成分を使用するため感触調整に使える成分の選択肢も広いが、基本的に水に溶ける成分だけで設計しなければならない化粧水においては使用感調整において保湿剤が果たす役割は非常に大きい。どの保湿剤を何%組み合わせるかで化粧水の使用感は大きく左右される。

この目的には少量配合するだけで大きく使用感を変化させることができる保湿剤が有用である。主にヒアルロン酸Na、水溶性コラーゲン、ポリエチレングリコール(PEG-6、PEG-32、PEG-75など)、糖類(ソルビトール、キシリトール、マルチトールなど)が使われる。

ヒアルロン酸Naの単位構造
(グルクロン酸NaとN-アセチルグルコサミンの二糖体)
ヒアルロン酸Na
グルクロン酸NaとN-アセチルグルコサミンの繰り返し構造で、長さはさまざま。短いものでも実際はこの図では入りきらないほど長い
ポリエチレングリコール(PEG)
エチレングリコールの繰り返し構造で長いものから短いものまでさまざまある
ソルビトール
キシリトール
エリスリトール
グルコース
マルチトール

筆者らの研究によると、糖類はおおむね数%、分子量100万前後の低分子量タイプのヒアルロン酸Naは0.2%、分子量200万前後の高分子量タイプのヒアルロン酸Naであればわずか0.05%の配合量で化粧品の感触に変化を与えることがわかっている。わずかな配合量で感触を大きく変化させられるこれらの成分は、他にさまざまな目的の成分を配合する余地を残すことができるため化粧品の感触設計で重用される。

高分子量タイプのヒアルロン酸Naは、塗布中のとろみや厚みとなじみ際のひっかかり感そして塗布後のさらっとした感触が特徴で、糖類はなじみ際の強いひっかかり感と塗布後のしっとりとした感触が特徴、PEGは塗布中のとろみと塗布後のハリ感が特徴、といったように成分によって感触の特徴が異なっている。

3.5 保湿剤の選択

前項の通り保湿剤には「保湿作用」「静菌作用」「感触調整作用」などいくつかの働きがあり、化粧品設計では目的に応じて必要な成分が選択され組み合わされる。

  • 保湿作用に優れた保湿剤:グリセリン、ジグリセリンなど
  • 静菌作用に優れた保湿剤:BG、DPGなど
  • 感触調整作用に優れた保湿剤:糖類、ヒアルロン酸Na、PEGなど

ひとつの化粧品に複数の保湿剤が配合されることが多いのはこのためである。一般的に保湿作用に優れた保湿剤としてグリセリンやジグリセリン、静菌作用に優れた保湿剤としてBGやDPG、感触調整作用に優れた保湿剤としてヒアルロン酸Naやソルビトール、PEGといった成分が選択されることが多い。