バトル・オブ・シリコンバレー

 アップル社の創業者「スティーブ・ジョブズ」とマイクロソフト社の創業者「ビル・ゲイツ」。同じ時代を生きる2人の半生を描いたドキュメンタリー風映画で、ジョブズの右腕「スティーブ・ウォズニアック」とゲイツの右腕「スティーブ・バルマー」の語りで描かれる。なんとスティーブが3人も登場するんだが本当のことだからしかたない。1999年公開の映画。1999年というのはアップル社を追放されたジョブズが流転の末にアップル社に復活を果たし宿敵マイクロソフト社との提携を発表した2年後。そして衝撃的なあの「iMac」が世に出た翌年。iPodが登場するのはまだ先のこと。そんなころに作られた映画。

 1971年、コンピュータといえば企業で使う大型計算機という時代に、数人の仲間とともに自宅の車庫で手作りの「個人向けコンピュータ」を作り始めたジョブズ。個人のコミュニケーション革命を起こすことを夢みて超絶零細企業アップルが超絶巨大企業IBMに対して戦いを挑んでいく。


 同じころゲイツは安モーテルの一室を本社として仲間数人とコンピュータ用プログラムを作るマイクロソフト社を立ち上げた。コンピュータ本体が売れた台数に応じて利益を得るライセンスモデルで会社を少しずつ成長させていた。

 アップル社はパーソナルコンピュータという新しい市場を作り出すことに成功して爆発的急成長をみせる。アップル社に出し抜かれて焦るIBMはパソコン市場への参入準備を進めていた。まだ小さな会社だったマイクロソフト社は無謀にもIBMの懐に飛び込み、なんとパソコン用OS「PC DOS」をライセンス提供する契約を獲得する。実はこのときPC DOSなんて口からでまかせで開発すらしてなかったというオチが付いてる。この瞬間の映画での描写がかなり笑える。打倒IBMに燃えて急成長するアップル社。巨大企業IBMを利用して成長するマイクロソフト社。ジョブズとゲイツの思想の違いがわかる。

 両社が決定的な接点を持ったきっかけが「グラフィカル・ユーザ・インターフェイス(GUI)」。マウスを使って画面上にあるウインドウやボタンを操作するという今では当たり前になったコンピュータ操作方法をアップル社は「Lisa」というパソコンでいち早く採用する。Lisaに衝撃を受けたゲイツはたとえIBMを裏切ることになってもアップルのために表計算ソフトを開発すると持ちかけ、引き換えに開発中の次世代機「Macintosh」の試作品を入手することに成功。これをもとに秘密裏に「Windows」の開発を始めた。

 商売上手で策略家のゲイツ。夢想家で芸術家肌のジョブズ。彼らの夢、挫折、葛藤、裏切りが描かれる。あまりにも有名な2人なので話の内容はすでに各所で語られているものばかりだが、映画だととその緊張感が生々しく伝わってきて改めてパソコン界を牽引した2人の歴史を知ることができる。

 ジョブズ、ゲイツを演じた役者がよく似てる。ジョブズを演じたノア・ワイリーは医療ドラマ「ER」でカーター先生をやってた人。映画が公開された年に開催されたMacworld EXPOでノア・ワイリーがApple社iCEOとして登壇した映像はおもしろい。私はこのときはこの映画のことを知らなくて、なんでノア・ワイリーがジョブズの真似をして登壇したのかわからなかった。そうか、こういう映画が公開されてたのか。

 犬猿の仲いわれていたジョブズとゲイツも年をとったせいか仲直りしたのかな。2007年にジョブズとゲイツを招いたトークショーが開催された。人を引き付ける魅力をもったシャベリ屋なジョブズと照れ屋で話下手なゲイツがお互いを尊重したようなトークを展開しているさまは30年間パソコン業界を牽引してきた2人の歴史の長さを感じさせる。なにしろイカレた貧乏大学生だった2人が今や世界を代表する大金持ちジイさんだからなあ。

 ちなみにWindows 1.0を発売した時にゲイツの右腕のスティーブ・バルマーがTVCMに出てるんだが、そのはじけっぷりがすごい。いまやマイクロソフト社のCEOなんだが。テレビショッピング状態。

 ゲイツとバルマーは結構ノリがいい。ノリと勢いで世界を制覇したって感じ。気難しい芸術家肌のジョブズとは正反対。Windows98を発売した頃には2人はこんなビデオを作って社内で流してたらしい。