大切なものをけがされた気がする

Cosmetic-Info.jp という化粧品成分・原料・処方に関する情報提供サイトをかれこれもう20年以上運営してる。便利に使ってくれている人も多いと思う。

なにかしらのテーマで情報を収集してまとめるってのは誰でも思いつくサービスだから、この20年の間には Cosmetic-Info.jp 以外にもいくつもの化粧品原料を紹介するサイトが生まれてきた。そんな中で Cosmetic-Info.jp がいまも中心的な存在でいられるのは(もちろん最初だったということもあるけど)地道な情報収集の継続と、集めた情報をどうまとめるかという思想、それを具現化する使いやすいシステムの構築の結果だったと思ってる。

いくらシステムが優れていても載っている情報の質が悪ければダメだし、いくら質の良い情報を集めてもなんの思想もなくただ漫然と書き写すだけのサイトなら必要ないし、載っている情報がすごく良くても使いにくいシステムではダメだし。Cosmetic-Info.jp はその3つが他よりもちょっとだけ良かったんだろうなと自画自賛。

んで、最近、化粧品の成分や原料の情報を収集してまとめますっていうサイトが誕生したんで見てきた。

・・・・・・・・・なんだろう、うーん、ガッカリした。過去20年見てきた Cosmetic-Info.jp っぽいサイトの中で最大級にガッカリした。継続も思想も構築もない。「なんか便利そうなサイト作ったオレスゲー」的な小手先感丸出しの、ガッカリすると同時になんかものすごい不快な感覚がフツフツとわいてくる。

たとえば「ヤシ脂肪酸」という表示名称についての情報提供画面を見てほしい。まずはCosmetic-Info.jpの画面から。

Cosmetic-Info.jp

次が、最近誕生した化粧品成分・原料の情報提供サイト

新登場の化粧品成分・原料の情報提供サイト

見た目の雰囲気が似てるのはまあいい。扱っている情報が同じなんだから見やすさを追求すれば自ずと似たような見た目になるってのはわからんでもない。まあそれにしても似すぎだろうとは思うけど。問題は中身、書かれている情報そのもの。

たとえば「定義」のところ。粧工連は、すでに存在する表示名称が定義中に含まれる場合はその表示名称に(*)という印を付けている。粧工連の元ネタはここまで。で、Cosmetic-Info.jp ではこういう場合にはその表示名称を抜き出して『参照表示名称:[XXXX]』というその表示名称とそのページへのリンクを定義の末尾に追加してわかりやすく作り変えている。このサイトには Cosmetic-Info.jp が独自に書き加えている部分も含めて丸っと転記されている。思想がない。悲しい。

Cosmetic-Info.jpは定義中に現れる既存の表示名称にはその表示名称のページへのリンクを付け加えている。
新しいサイトはただ文字を書き写しただけなので、参照表示名称が意味をなしてない。

これってさ、[ヤシ油] って部分がヤシ油のページへのリンクになっているから意味があるんであって、単に『参照表示名称:[ヤシ油]』っていう文字だけコピペしても、それは定義中の『ヤシ油(*)』を『参照表示名称:[ヤシ油]』に書き換えてるだけで何の役にも立たない無駄な情報。私が使いやすさを考えて作った独自の表示方法を、その情報の意味を考えもせず書き写しただけだから、無意味な文字列に成り下がってる。成分に対する愛が感じられない。どうせ丸写しするならリンク機能もちゃんとマネすりゃいいのに、中途半端なことされて、なおさら悲しい。

たとえば「中文名称」のところ。どの表示名称とどの中文名称を紐づけるのが正解なのかってのが微妙な問題をはらんでいて解釈がいろいろある。名称同士の関係性に正解がないから困ってる。Cosmetic-Info.jp は Cosmetic-Info.jp としての解釈で表示名称に対する中文名称の紐付けを行っている。それが丸写し。俺の解釈とあんたの解釈は同じなのか?あんたにはあんたなりの解釈はないのか?悲しい。

(2010)のカッコは半角、(2015)のカッコは全角、2021の情報は今精査中でまだ載せてないのがCosmetic-Info.jp
カッコの全角・半角がそのまんま、2021の情報が載ってないのも同じ

しかも、Cosmetic-Info.jp では、元ネタの『国際化粧品原料標準中文名称目録(2010)』の(2010)は数字を半角カッコで括っていて『已使用化妆品原料名称目录(2015版)』の(2015)の版という文字付きで全角カッコで括っていて、已使用化妆品原料名称目录(2021)は情報の精査が終わってないので未掲載なのまで同じ。すごい悲しい。

なぜか必要な改行やスペースを取り除いているので情報が変になってる

そして、がっつり丸写しかと思えば、なぜか定義と中文名称とCAS RN®の情報からは改行とスペースを取り除くという意味不明な加工をしているから、Salvia officenalis が Salviaofficenalis になって単語の区切りがなくなってるし、目録版中文名称と既存使用中文名称がつながっていて読みにくいし、CAS RN®に至っては、8022-56-8 と 84082-79-1 がつながっていてもはや情報として無価値どころか誤情報に生まれ変わってしまっている。成分に対する愛がまったく感じられない。どうせ丸写しするなら改行やスペースもちゃんとマネすりゃいいのに、中途半端なことされて、とんでもなく悲しい。

2つのサイトの備考欄の比較(上:Cosmetic-Info.jp / 下:悲しいサイト)

たとえば「備考」のところ。20年にわたって収集し続けている表示名称に関するさまざまな情報を、私の解釈を交えて私の言葉で書き貯めている。いろんな通知が出たり、表示名称とINCIの関係性に解釈の問題が生じたとき、その他もろもろ集めたいろんな情報を自分なりに整理してわかりやすく記録し続けてきた。これも丸写し。このサイト今年できたばっかりなのに「(2014.6.15現在)」とかタイムスタンプまで丸写し。20年以上にわたる私の努力をなんだと思ってるんだろう。悲しい。

そしてなにより超絶最大級に悲しいのが↓コレ

Cosmetic-Info.jpは、ところどころに小ネタをはさんで楽しんでる。
おれの密かな楽しみまで奪いやがった

昔からところどころにクスッと笑える小ネタを書いてひとりでニンマリ楽しんでるんだけどさ、これもそのまんま丸写し。ここまで丸写しするなよ。おれの密かな楽しみを踏みにじられたのが何より最大級に悲しい。超絶悲しい。

なんだろう、このサイト作った人って技術屋としての自負とか矜持みたいなものはないんだろうか。

5年くらい前だったかな、さまざまな情報を一定のテーマに沿って収集・再構成して掲載する「まとめサイト」が流行してた。「キュレーションメディア」とかカッコいい名前で呼んでたけど。あの当時、医療系情報をかき集めてた「WELQ」ってサイトが、真偽も定かでない情報をなんの思想もなくただただかき集めて掲載してて、無断転載だとか嘘情報だとかで大問題になって閉鎖になった。あれと変わらないな。

情報に対する「愛」が感じられない。情報をカネを生み出すための道具としてしか見てないのかな。情報そのものが何を意味していて何を伝えてくれるものでどう受け止めるものなのか、そしてそれをどう伝えたらいいのか、そういった「情報を愛でる心」が欠落してるんだと思う。Cosmetic-Info.jp の情報を抜き出すプログラムを組んで自動的に自分のサイトにデータを取り込んだだけなんだろうな。取り込んだデータ全部を穴が開くまで見て、おかしなところや自分の思想にあわない解釈とか変えようとかって思わないんだろうか。

このぶんだと、久光工房が支援している化粧品成分オンライン(https://cosmetic-ingredients.org)の内容も丸写しして「成分の有効性、安全性情報、文献リストも掲載!」とか言い出しかねないな。

化粧品業界って、ビジネス成功のためなら手段を選ばないみたいなマイクロソフトとかソフトバンク風な人が(いないわけじゃないけど)少なくて居心地が良かったんだけど、だんだんそうでもなくなってきたのかな。悲しい。