化粧品業界で技術情報の提供を生業としているので、質問や相談をよく受ける。多い相談の一つが「この成分って化粧品に配合していいの?ダメなの?」という配合可否判断だ。
最終的には「化粧品製造販売業者が自らの責任において自由に選択できます」という定型文に集約されるんだけどね。
2001年3月以前
かつて(2001年3月以前)は、化粧品は品目ごとの承認制度でした。この制度の下では、たとえば成分Aを3.0%配合したフェイスクリームが承認されたとすると、これによって成分Aを基礎化粧品に3.0%配合したという「前例」ができ、これによって成分Aの基礎化粧品への配合上限は3.0%という種別許可基準が定まります。その後、どこかの会社が成分Aを4.5%配合した化粧水の承認を得たら、成分Aの基礎化粧品への配合上限は4.5%に更新されます。もし成分Aを20%配合した乳液を作りたいと思ったら、基礎化粧品に成分Aを20%以上配合した化粧品が過去に承認された前例があるかどうかを調べる。前例があればOK。なければ前例を作るためにダミー処方で申請をして「前例」を作るところから始める。
どの成分がどの種別に何%まで配合していいのかの情報の一部をまとめて公開していたのが「化粧品種別許可基準」。別紙規格といった例外はあるものの、基本的にはこの化粧品種別許可基準に書いてあることが配合可能範囲で、それ以外は配合不可、と配合可否判断は極めてシンプルでわかりやすかった。
2001年4月以降
2001年4月に化粧品の規制緩和が行われた。国が責任を持って一品一品を確認し承認する品目ごとの承認制度は廃止され、化粧品会社が自らの責任において判断し国には発売することを報告するだけの品目ごとの届出制に変わった。
化粧品会社が責任を持って判断するということの中には、当然ながら「成分の配合可否判断」も含まれている。
防腐剤、紫外線吸収剤、有機合成色素に関しては、国が許可した成分を許可した範囲内だけで使用するという2001年3月以前とほぼ同様の「やっていいといったこと以外はやっちゃいけない」制度が残っているものの、それ以外の成分については『化粧品に配合する成分は化粧品製造販売業者が自らの責任において自由に選択できる』のが2001年4月以降のルール。
配合可否は、国が決めてくれるわけでも、粧工会が決めてくれるわけでもなく、ましてや原料会社が決めるものでもない。さすがにこれはダメですよという禁止や制限事項は守らなければならないが、それ以外は化粧品会社(化粧品製造販売業者)が自らの責任において自由に決めていい。
自由と責任はセットです
最近はこの『自由』という部分だけしか見えてないのか?と疑いたくなる化粧品会社が散見される。『自らの責任において』自由なんだよ。何してもいいけど、それは結果に対する責任をしっかり果たす覚悟と財政基盤があることが前提なんですよ。よく、原料会社に「この成分は化粧品に配合していいの?」って聞くことがあるけど、聞くのはいいけど、配合可否判断の自由と責任はセットで化粧品製造販売業者にあるってことを忘れちゃダメよ。成分選択の「自由は化粧品会社」で、成分選択の「責任は原料会社」なんていう不均衡はおかしいでしょ?
なお、ここでいう「責任」ってのは「何かあればオレが全部責任取るから、やれ!」みたいな能天気なわたしがカッコよく決めたい時に使う決め台詞のような軽いものではない。法律やガイドラインをどのように解釈するのか、その結果発生する利益もしくは損失に対して具体的にどう責任を取るのか、取れるのか。自社が果たすことができる社会的責任の範囲を見極めて判断しないといけない。とくに健康被害のような経済損失とは次元の違うリスクがある場合には慎重な判断が求められる。
四半世紀前まで、誰がどう考えてもなんの問題もない成分であっても国からやっていいと言われてないことはやってはいけない。化粧品会社は国がやっていいと決めた範囲の中で化粧品を作っていた。成分選択の自由がない代わりに責任もない。この時代に化粧品薬事をしていた人や、今もそのような制度で運用されている医薬品業界から来た人の中には、成分の配合可否は誰かが決めてくれているという他責の思考が抜けず化粧品成分の配合可否の「自由と責任のセット」についてこれてない人もいる。
判断が分かれる広大なグレーゾーンがある
さて、配合可否は化粧品製造販売業者が自らの責任において判断するわけですが、その判断において誰がどう見ても配合可能って成分から、誰がどう見ても配合不可って成分までの間に、配合可・不可の判断が会社によって分かれる「グレーゾーン」が存在します。もし配合しようとしている成分がグレーゾーンであった場合、化粧品製造販売業者は自らの責任において白か黒か判断しなければなりません。他責の思考が抜けない人はここで原料会社がいいって言ってるとか表示名称があるとか、自分ではない誰かが責任を持って決めてくれてるはずだと考えがちです。でもそうではありません。原料会社からの情報や他の化粧品会社の動向などから、自らの責任において判断しなければなりません。成分選択の自由は化粧品製造販売業者にあるし、成分選択の責任も化粧品製造販売業者にあるんです。
化粧品成分の配合可否判断は奥が深いですよ。