日別アーカイブ: 2020年7月19日

2 化粧品成分の分類 / 化粧品の成分

化粧品の中には、マスカラ、ネイル化粧料、毛髪着色料のようなかなり独特な設計が行われるアイテムもあるが、多くのアイテムは「水性成分」「油性成分」「界面活性剤」「着色剤」という化粧品設計の基本となる成分に「品質向上剤・品質保持剤」「有効成分・美容成分」という添加剤を加えた6つに分類される成分の組み合わせで説明できる。本稿ではこの分類に沿って化粧品の成分を説明する。

化粧品設計の概念図

ただし、化粧品成分の自由化以降、新素材や複合素材の開発が大きく進展し、従来の分類には当てはまらない成分や複数の分類にまたがる成分が次々と登場している。そのため同じ成分でも書籍によって異なる分類になっていたり、分類の項目そのものが異なっていることも多くなってきたことは知っておく必要がある。

2.1 水性成分、界面活性剤、油性成分、着色剤

「水性成分」「界面活性剤」「油性成分」の3つの組み合わせで多くの化粧品、特にスキンケア化粧品の基本設計を説明できるため、この3種類をまとめて「基剤」と呼ぶことも多い。

たとえば水性成分を使えば化粧水を設計できる。界面活性剤を使えば固形石鹸や洗顔パウダーを設計でき、界面活性剤を水性成分で適度に希釈すると洗顔フォームやシャンプーを設計できる。油性成分を使えばフェイスオイルやヘアオイルを設計できる。油性成分に界面活性剤を加えればクレンジングオイルを設計できる。水性成分と油性成分を界面活性剤で安定した混合状態にすることで乳液、クリーム、ヘアコンディショナーといったいわゆる乳化物を設計できる。このようにスキンケア化粧品の基本設計の多くが水性成分、界面活性剤、油性成分の組み合わせで説明できる。

これに、肌に色を付ける「着色剤」を加えると主だったメイクアップ化粧品の設計も説明できる。

着色剤をそのまま使えば粉末状のルースファンデーションを設計できる。着色剤に油性成分を加えると撥水性と付着性に優れた油性ファンデーションや口紅を設計できる。着色剤を水性成分と油性成分と界面活性剤からなる油中水型乳化物に混ぜれば、のびの良い適度な塗りやすさと適度な化粧持ち、スキンケア効果のバランスに優れた液状ファンデーションやクリームファンデーションが設計できる。

主だった化粧品アイテムの基本設計は以上のように4つの分類に属する成分の組み合わせでおおむね説明できる。水性成分、界面活性剤、油性成分、着色剤は大分類であり、それぞれの分類の中は性質や役割によってさらに中分類、小分類と細分化されている。たとえば、界面活性剤で固形石鹸を設計できるが、界面活性剤ならなんでもよいわけではなく固形石鹸の設計に適した界面活性剤がある。個々の大分類の中がさらにどのような性質に着目してどのように分類がされているといった各論は以降の各章で説明していく。

2.2 品質向上剤・品質保持剤

前項のような成分の組み合わせが、各アイテムの基本設計だが、これだけでは手作り化粧品レベルである。流通される商品としての化粧品は、工場で製造され、工場の倉庫に入り、店舗へ出荷され、店舗の倉庫に入り、店頭に陳列され、消費者が購入し、使い始めて、使い終わるまで、非常に長い時間がかかる。気に入った色の化粧品が使っているうちに変色したり、香りが気に入って買った化粧品が使っているうちに変臭したり、気に入った化粧品がカビてしまったりしてはいけない。消費者が使い始めてから使い終わるまでしっかりと品質を維持するために「増粘剤」「pH調整剤」「防腐剤」「酸化防止剤」「キレート剤」「紫外線防止剤」などの品質向上剤や品質保持剤と呼ばれる成分を必要に応じて選択し適切な量を配合することで、はじめて流通に耐えうる「商品」になる。

化粧品の品質は一般に「必要品質」と「魅力品質」の2つに分類されている。このうち必要品質は「必要」という文字からわかるとおり、全ての化粧品が備えていなければならないあたりまえの品質である。そのためほとんどの消費者や評論家にとって必要品質は興味の範疇外であり、評価はもっぱら魅力品質に集中する。必要品質の確保は化粧品製造販売元の責任感にすべてがかかっているといっても過言ではない。品質向上剤や品質保持剤という文字に対して負の印象を持ち、こういった成分を使わないことに魅力や価値を感じる消費者がいることは確かだが、その魅力品質にこだわりすぎて必要品質を確保できない化粧品は、より重大でより深刻な問題を引き起こすことになる。必要品質あっての魅力品質であることを化粧品の提供者は常に意識しなければならない。

酸化防止であればBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)ではなくトコフェロール(ビタミンE)を使うとか、防腐殺菌であればパラベン類ではなくフェノキシエタノールを使うなど、品質保持剤に対する否定的な印象に配慮しつつ必要品質を確保する方法はいくつかある。また、化粧品製造販売元は自らの責任をよく考え、いたずらに不安感をあおって必要品質の重要性をおとしめる方法での商品の差別化や広告手法は慎むべきである。

2.3 有効成分・美容成分

化粧品の差別化に必要な成分が有効成分や美容成分である。

各社からさまざまな化粧品が販売されているが、前述の通り化粧品の基本設計は長い歴史の中で、考え方もそれを実現するために使用する成分もある程度決まっている。たとえば化粧水であれば、「うるおいを与え、うるおいを保つ」ことが目的の商品なので、水(うるおいを与える)と保湿剤(うるおいを保つ)の2つで構成するのは必然と言える。そしてそれを実現するために使用する保湿剤は保湿作用に優れたグリセリン、防腐性を高めるBGやDPG、感触を大きく変えるヒアルロン酸Naや糖類やPEGといった組み合わせが定番中の定番となっている。

では各商品の違いはどこにあるのか。商品の特徴や差別化のポイントになるのが有効成分や美容成分と呼ばれる成分である。化粧品の基本機能に「プラスアルファ」する成分と言うとわかりやすいかもしれない。

「この化粧水は化粧水の基本機能に加えて美白の働きを持った成分を配合しているので美白が気になる方におすすめ。」「この化粧水は化粧水の基本機能に加えて炎症を抑える成分を配合しているのでニキビや髭剃り後など炎症が気になる方におすすめ。」「この化粧水は抗シワの働きを持った成分を・・・。」「この化粧水は肌質改善が期待される成分を・・・。」「この化粧水は・・・・・」。このように基本設計に、紫外線防止成分、美白成分、抗炎症成分、抗シワ成分、肌質改善成分、血行促進成分、皮脂抑制成分など消費者の肌悩みや希望にあった特性を有する成分を加えることで、商品に特徴が生まれ、差別化のポイントとなる。

2.3.1 有効成分

医薬部外品において商品の特徴や差別化のポイントとなる成分が「有効成分」である。

医薬部外品とは、特定の成分によって美白、殺菌、血行促進、染毛、殺虫、栄養補給など特定の効能効果を発揮するもので、人体に対する作用が穏やかなものである。特定の成分で特定の効能効果を発揮するという点は医薬品のようであるが、人体に対する作用が穏やかであるため医師等による指導なしに自由に使える点は化粧品のようでもあるため「医薬品と化粧品の中間」と表現されることもある(ただし医薬部外品には殺虫剤や栄養ドリンク剤など化粧品的でないものが含まれているため微妙に変な表現ではある)。

医薬部外品において特定の効能効果を発揮する成分が「有効成分」であり、化粧品的なものでは「肌荒れ改善」「抗炎症」「殺菌」「美白」「抗シワ」などといった効能効果を発揮する成分が知られている。有効成分は、効能効果や安全性に関する膨大な実験データをもとに国による審査を経て承認されるもので、これにはかなりの時間と費用がかかるため新規有効成分の開発は資金や人材が豊富な企業にしかできない。そのため医薬部外品の有効成分は、その成分を開発した企業の技術力そのものを象徴する役割ももっている。

2.3.2 美容成分

化粧品において商品の特徴や差別化ポイントとなる成分が「美容成分」である。

特定の成分が特定の効能効果を発揮する医薬部外品とは異なり、化粧品は製品全体によってその効能効果を発揮するものとされている。そして化粧品の効能効果は昭和36年2月8日薬発第44号薬務局長通知の別表第1(平成23年7月21日薬食発0721第1号医薬食品局長通知により改正)で56項目が用意されている。制度上は、その化粧品が果たす効能効果を56項目の中から選んで消費者に提示することに限られているが、たった56項目では多くの化粧品で説明が同一になってしまい、自社の化粧品の良さや特徴を伝えることは難しい。

そこで、その化粧品の特徴をなにか特定の成分とセットでみせることで消費者により強く印象づけたい、もしくは56項目とは違う働きを特定の成分とセットで消費者に伝えたいといったいくつかの目的があって、化粧品においても特定の成分を特色として際立たせる手法が一般的に行われる。このような医薬部外品における有効成分と同様の役割を果たす成分に決まった呼び方はないが「美容成分」という言い方が一般的である。美白、抗炎症、抗酸化、血行促進、抗糖化、抗シワ・・・56項目にあるものないもの含めて消費者の肌悩みに応じたさまざまな美容成分が提案されている。有効成分と違って効能効果や成分について厚労省による審査承認はないので、良い言い方をすれば自由だが、悪い言い方をすれば無秩序である。業界団体によってしっかりとしたガイドラインが策定され運用されている「紫外線防御(SPF、PA)」と「乾燥による小ジワを防ぐ」は例外と言ってよい。

もちろんこのような手法は行き過ぎれば法の趣旨を損ねることになるので「化粧品における特定成分の特記表示について」(昭和60年9月26日薬監第53号厚生省薬務局監視課長通知)や「化粧品等の適正広告ガイドライン」(日本化粧品工業連合会)などの公的規制や業界自主規制を踏まえた広告活動が切に求められる。美容成分は商品の差別化に直結する成分であるため、基剤、品質向上剤・品質保持剤と比べて非常に情報量が多いものの前述のような事情から情報の質は玉石混交である。日本化粧品技術者会や日本香粧品学会、粧工連、厚労省などの学術的、公的で良質な情報に触れる機会が少ない消費者が、自称専門家などによる質の低い情報に振り回される状況は、誰でも容易に情報発信できるインターネットの普及によってさらに深刻さを増している。

2.4 化粧品の成分と医薬部外品の成分

化粧品の成分と医薬部外品の成分の違いについて簡単に触れておく。

医薬部外品のうち「薬用化粧品」「薬用石鹸」「薬用入浴剤」「パーマ剤」「染毛剤」は目的や使用方法が化粧品的であることや、使用する成分に重複するものが多いこともあって、化粧品と一緒に考えることが多い。しかし、医薬部外品の成分は国による許可制であり、医薬部外品原料規格、日本薬局方、食品添加物公定書などの公定書によって厳密に規格化されている。そのため化粧品と医薬部外品とで同じ名前の成分であっても中身が完全に一致するとは限らない。ほとんどの場面で化粧品の成分と医薬部外品の成分の違いを意識することはないが、それでも化粧品製造販売元の責任で自由に決められる化粧品の成分と、国によって厳密な規格が定められている医薬部外品の成分は本質においては似て非なるものである。

本稿のテーマは「化粧品の成分」であるが、とくに有効成分・美容成分の章では医薬部外品の成分についての解説が多く含まれる。法制度の上では化粧品は製品全体で効能効果を発揮するものとされており、特定の成分が特定の効能効果を発揮するものではない。そのため「どの成分がどんな効能効果を持っているのか」は、医薬部外品の有効成分の解説を基本とし、そこにマーケティング手法として化粧品でも同様の概念が用いられている成分についての解説を加えるという形式になる。他の章では特に注釈のない限り、化粧品の成分についての解説である。


  1. 概要
  2. 化粧品成分の分類
  3. 水性成分
  4. 油性成分
  5. 界面活性剤
  6. 着色剤
  7. 体質粉体
  8. 品質向上剤・品質保持剤
  9. 有効成分、美容成分