第9地区

 映画「第9地区」を観た。

 感想は「エイリアンという異物を題材にして差別問題について考えさせられる映画・・・のようでいて、実は北斗の拳ヒデブー&士郎正宗ランドメイドはカッチョエーなB級映画」

エイリアン映画としては異色の設定。

 南アフリカ上空に巨大な宇宙船が現れる。中には餓死寸前の宇宙人が大量にいた。どうやら宇宙船が故障して漂流状態になり、指導的立場にいたものは次々と死んでしまい、かろうじて生き残っていたのは民度の低いものばかり。宇宙船を修理する技術は失われ、しかたなく国連は宇宙船の近くに難民キャンプを作って彼らをそこに住まわせた。20年後、難民キャンプ周辺はスラム化していた。宇宙人との融和は進むどころか街には「宇宙人お断り」の貼り紙があふれ、民度の低い宇宙人を相手にあくどい商売をするマフィアも存在する。住民の「宇宙人は出て行け」の声に抗しきれず国連は都市部から遠く離れた地に新たな難民キャンプを作って宇宙人を強制移住させる作戦を始める、というところから物語が始まる。

 作戦の文民側リーダーに抜擢されたのは難民宇宙人の世話を委託されている企業のしがないサラリーマン。宇宙人の世話が担当とはいえ、宇宙人を(字幕では)「エビ」と侮蔑的に呼び、どうしょうもない生き物としか見てない。

 見た目は二本足で歩くザリガニという感じで、食生活マナーも(先進国といわれる)私たちの常識からみたら非常に悪い。徹底的に生理的嫌悪感を抱く生き物としてデザインされているので、観客も主人公と一緒に「うわー、なんかイヤだなあコイツら、キモチわるい」と簡単に難民宇宙人を差別する側に立つことができる。

 ところが宇宙人の強制移住作戦を始めた直後にとんでもない事故をきっかけに主人公は軍や国家から命を狙われる身になってしまう。命からがら逃げ出した主人公が身を隠す場所はもうスラム化した宇宙人難民キャンプしかない。そこである宇宙人親子と出会って・・・みたいにして物語が展開していく。

 宇宙人を嫌悪する異物と設定し、その宇宙人がどこであろう南アフリカに漂着して、白人-黒人-宇宙人の差別構造を構築することで全体を通して、差別問題を考えさせられる骨格が用意されている。これをスピルバーグが作ったら全編感動しっぱなしで涙と一緒に鼻水まで出てきちゃうような説諭大作ができあがったかもしれない。

 ところがこれだけの状況を構築しておきながらこの映画は絶妙に外してくる。説教臭くないどころか、もう、ランボー状態。命を狙われた主人公は宇宙人の超絶破壊兵器を手に入れて軍隊相手に反撃開始。ドッカン、ボッカン。そして悪いヤツら(傭兵やマフィア)は北斗の拳のようにヒデブーと吹き飛ぶ。とりあえずお子様は見ちゃダメです。デートで行くのもお勧めしません。なにしろヒデブーですから。そして力づくで押してくる傭兵部隊を主人公はさらなる超絶破壊兵器で迎え撃つ。アップルシードのランドメイドとか攻殻機動隊の強化外骨格って言ってわかる人にはわかるアレ。ま、小さなガンダムみたいなもんだ。これがまたよく動く動く。ドッカンボッカンヒデブーの連発。あまりの超絶兵器ぶりにヒデブーになって散ってしまう傭兵サンたちがちょっとかわいそうになってきました。

 成り行きでしかたなくとはいえ宇宙人親子のために命をかけて戦った主人公。その行く末を見せてくれたラスト2分が、それまでのランボー状態だった映画をなんとかしめてくれました。このラスト2分がなかったら、ただの実写版ヒデブー映画でしたよ。あぶない、あぶない。あのラスト2分のおかげで映画代1,800円が無駄にならずに済んだわ。差別問題についてちょっと考えさせられないこともないような気がするような感じがしないでもないヒデブー&強化外骨格エンターテイメント映画でした。