6 着色剤 / 化粧品の成分

身体または化粧品に色をつけるために使われる成分が着色剤である。

一般的に着色剤は「無機顔料」「有機合成色素」「真珠光沢顔料」「天然色素」の4つに分類されるが、近年は新素材や複合素材などの登場によって、既存の分類にあてはめにくい着色剤や複数の分類にまたがるような着色剤が作られている。そのため着色剤の分類方法は参考書によって多少異なる場合がある。

着色剤の分類例

6.1 無機顔料

無機鉱物を用いた水・油・アルコールに不溶の着色用粉体が無機顔料である。かつては赤土や黄土などの天然鉱物を粉砕したものが使われていたことから天然成分と紹介されることもあるが、近年は不純物が少なく安定した品質で大量生産できる合成物が使われることが多い。

無機顔料はその発色によってさらに「着色顔料」「白色顔料」「体質顔料」に細分される。

6.1.1 着色顔料

無機顔料の中で有色の(肌に対する着色効果をもつ)ものが着色顔料である。白色のものを含む場合もあれば、白色のものは「白色顔料」として別に分類する場合もある。鮮やかさに欠けるものの、多くのものが熱や光に対して安定で褪色しにくいのが特徴。化粧品では酸化鉄、グンジョウがよく使われる。

酸化鉄は、鉄原子と酸素原子が結合した化合物いわゆる「鉄さび」のことである。鉄原子と酸素原子の結合状態によって発色に違いがあり、化粧品では黒色の黒酸化鉄(主にFe3O4)、赤色のベンガラ(主にFe2O3)、黄色の黄酸化鉄(主にFeOOHとFe2(OH)6)が使われている。国内で多く製造されているファンデーションのベージュ系の色は、黄酸化鉄(黄)にベンガラ(赤)を少し加えて、後述する酸化チタン(白)を加えることで設計でき、ベンガラの割合を増やせばピンク系に、酸化チタンを増やせばライトベージュ系に、黒酸化鉄(黒)をわずかに加えればオークル系に色味を調整できる。極めてざっくりとした説明にはなるがこのように黄、赤、白、黒の4色の無機顔料でたいていのファンデーションの色味は組み立てることができる。なお、医薬部外品では「黒酸化鉄」「ベンガラ」「黄酸化鉄」を別々の成分として扱うが、化粧品ではこれらを区別せず「酸化鉄」の表示名称でまとめている。

無機顔料の色のイメージと化粧品表示名称(カッコ内は医薬部外品での名称)

青系の無機顔料としては、グンジョウが有名である。工業的にはケイ酸、カオリン、炭酸ナトリウムなどの無機材料を素原料として混合し、焼成してできる複合スルホケイ酸アルミニウムナトリウムで、素原料の混合比や焼成する温度によって色調が異なる。グンジョウも医薬部外品では色調によってグンジョウ、グンジョウバイオレット、グンジョウピンクと別々の成分として扱っているが、化粧品では区別せず「グンジョウ」の表示名称にまとめている。グンジョウは酸性条件で安定性が悪く褪色するのでリキッドファンデーションなど水を含む処方に使用する場合は表面処理やpHに注意が必要である。

緑系の無機顔料としては、クロムと酸素が結合した酸化クロム(Cr2O3)が有名である。

6.1.2 白色顔料

無機顔料の中で白色のものが白色顔料である。ただし白色と他の色を別にする必要性がない場合は着色顔料に含める分類もある。

化粧品では酸化チタンがよく使われる。酸化チタンは非常に屈折率が高いため白度が高く安全性や価格に優れているため、化粧品分野だけでなく絵具や塗料、壁紙など幅広い産業分野で白色顔料として使われている。また、屈折率が高いことで紫外線散乱効果にも優れていることから化粧品では着色目的だけでなく紫外線散乱剤としても使われる。

酸化チタンには、強い光があたるとその光エネルギーによって励起された電子が表面に付着している物質に結合してこれを還元する性質がある。またこのとき電子が抜けた穴(正孔)は表面に付着している別の物質から電子を奪ってこれを酸化する性質もある。

酸化チタンが光のエネルギーを利用して表面に付着した物質を酸化したり還元したりする作用は光触媒作用と呼ばれ、太陽光など強い光が当たると表面の汚れやカビなどの有機物が分解される防汚性に優れた外壁表面材として実用化されている。

化粧品用の酸化チタンは光触媒作用を抑えるために表面をコーティングする

一方で身体に塗布する化粧品用成分にとっては光触媒作用は問題である。強い光を受けないと触媒作用は顕著には現れないが外出時に強い日差しを受けることは十分に考えられる。そこで化粧品に使用する酸化チタンは表面を反応性のない物質(シリカ、アルミナ、シリコーン、高級脂肪酸など)でコーティングすることが一般的である。そのため、酸化チタンを配合する化粧品の全成分リストには必ずと言っていいほどシリカ、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン、ステアリン酸などといった表面処理剤の成分名も同時に出てくる。

6.1.3 体質顔料

無機顔料の中で肌に対する着色効果をほとんどもたないものが体質顔料である。色を薄める「希釈剤」、粉体状化粧品を使いやすい量に調整する「増量剤」、感触をよくする「感触向上剤」といった目的で使われる。化粧品ではタルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどがある。

従来は色の希釈、増量、感触向上といった目的をはたす粉体は無機材料しかなかったため体質顔料は無機顔料の一部に分類されてきた。しかし近年は有機高分子やシリコーン、金属石けんなど無機以外の材料でも同様の目的の粉体が開発されている。これらは「材質」で分類すると「体質顔料」「有機高分子粉体」「シリコーン粉体」といった個別の分類になるが、希釈・増量・感触向上といった「目的」に着目して「体質粉体」としてまとめる分類方法もある。

色の希釈、感触向上、増量などの目的で使われる肌に対する着色効果のない粉体材料の分類について

6.2 有機合成色素

有機合成によって作られた着色剤の総称が有機合成色素である。

無機顔料は種類が少ないため色の数には限界がある。また水・油・アルコールなど何にも溶けないため使い方にも限りがある。無機顔料では実現できない微妙な色調や彩度の高い発色や幅広い用途への対応を求めて有機合成によって作られた着色剤が有機合成色素である。

有機合成色素の中には、石油石炭の生成過程で作られるタールに含まれる成分から合成したものがあるため、かつては「タール色素」と呼ばれていたが、タールを使って合成するものばかりではないため現在ではこの呼び方はあまり使われなくなっている。

繊維を着色する、紙を着色する、プラスチックを着色する、ゴムに着色する、インク用、ペンキ用、印刷用、金属塗装用・・・・無機顔料では実現できない色、無機顔料では着色できない物、色や用途ごとに実に多種多様な有機合成色素が作られて我々の世界のありとあらゆる場所を彩っている。

無数ともいえるほど種類がある有機合成色素だが、人体に塗布することを目的とする化粧品では、無制限に使っていいということはない。化粧品成分自由化の例外の一つがこの有機合成色素である。国内の化粧品に使用可能な有機合成色素は、医薬品を着色するために許可されている有機合成色素『医薬品に使用することができるタール色素を定める省令』(昭和41年8月31日厚生省令第30号)を準用して83種類に限定されている。この83種類の有機合成色素は、法律によって定められた色素という意味で「法定色素」とも呼ばれている。有機合成色素の表示名称は「黄4」「赤202」「青1」のように「色名+番号」という形式になっているのですぐにわかる。医薬部外品では個別の成分名ではなく「法定色素」とまとめて記載することもある。

化粧品に使用が許可されている有機合成色素は83種もあるが、長い歴史の中で安定性、安全性、他国規制との共通項、発色、使い勝手、価格などさまざまな観点から絞り込まれてきており、実際に使われているものはかなり少ない。特に輸出が化粧品産業にとって重要になった近年は、日米欧いずれの国でも共通して許可されている有機合成色素で設計をすることが求められるようになっている。しかし「化粧品に使用可能な有機合成色素」は日米欧でかなり考え方が異なっていて、成分の分類方法すら異なっているため日本のこの成分が米国や欧州のどの成分に対応するかというのも単純な1:1関係になっていない。そのため日米欧で共通して許可されている有機合成色素となるとかなり限られてくる。このような理由から、現在の化粧品においては「黄4」「赤202」が圧倒的に多数の化粧品で使用されており、ついで「赤201」「青1」「赤226」「黄5」「赤104(1)」「赤218」「赤227」「赤223」といった色素が使われている。おおむねこの10種類に集約されており、これら以外の有機合成色素はほとんど使われていない。

有機合成色素はその性質によって「有機顔料」「染料」に細分され、さらに染料にはレーキ処理と呼ばれる顔料化処理を施された「レーキ」もある。

6.2.1 有機顔料

有機合成色素のうち、水・油・アルコールに不溶の着色用粉体が「有機顔料」である。不溶性の粉なので無機顔料と区別なく同様に扱える利点がある。

6.2.2 染料

有機合成色素のうち、水・油・アルコールに溶けるものを「有機染料」または単に「染料」という。性質によって水溶性染料、油溶性染料、および酸化染料に分類され、化粧品では水溶性染料、油溶性染料のみが使われる。

染料、特に水溶性染料はそのまま使うのは難しいので後述するレーキ処理によって顔料化して使用することがほとんどである。

6.2.3 レーキ処理

水溶性染料は水に溶かすと酸性やアルカリ性を示すものが多く、そのまま使用すると化粧品のpHを大きく変化させたり、アミノ酸やヒアルロン酸Naなど他のイオン化合物と反応するなど使い勝手が悪い。そこで、水溶性染料の分子構造中のナトリウムイオンまたはカリウムイオンをカルシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオンなどで置換して顔料化したり、硫酸アルミニウムや硫酸ジルコニウムなどで処理して不溶性にしさらにアルミナに吸着させて顔料化するなどして使うのが一般的である。染料を顔料化するこのような処理を「レーキ処理」と呼び、レーキ処理で作られた着色剤をレーキ顔料や染料レーキまたは単に「レーキ」と呼ぶ。

印刷業界では、染料を体質顔料に染め付けて作る顔料をレーキ顔料、染料を金属と反応させて作る顔料をトナー顔料と呼ぶとか、米国では有機顔料と体質顔料を単純混合しただけのものまでレーキと呼ぶとか、レーキに関しては定義や分類が業界や国によって微妙に異なっているのでややこしい。化粧品設計では、染料を何らかの方法で顔料化したものを「レーキ」と呼ぶ、程度の認識があればおおむね問題ない。

しかしネットにはレーキ処理の存在を無視して、染料だから顔料だからと間違った情報や解説が散見されるのは困ったものである。

これらレーキを配合した化粧品の全成分リストには染料の成分名とともにレーキ処理に用いた水酸化Al、硫酸Ba、タルクなどの成分名が出てくることが多い。ただし、黄4、青1、黄5、赤104(1)といったレーキ化して使うことが一般的である染料はその成分の定義に『本品は、平成15年厚労省令第126号に示される[色素名]又はそのアルミニウムレーキ又はそのバリウムレーキ又はそのジルコニウムレーキである。』と書かれていて染料とレーキを区別してない表示名称もある。そのため、水酸化Al、硫酸Baといったレーキ処理物の名称が全成分リストに出てこないからといって、レーキ処理されてない染料そのままが使われているとは断定できないことにも留意が必要である。

6.3 真珠光沢顔料

真珠のような複雑な表面発色をする水・油・アルコールに不溶の粉体。パール顔料ともいう。古くは魚の鱗を原料とした「魚鱗箔」から始まり、近年は屈折率が異なる複数の素材を積層した複合粉体が主流になっている。

板状マイカを核に酸化チタンや酸化鉄の薄膜層を被覆した積層体であるマイカ/酸化チタン複合体(雲母チタン)や、ホウケイ酸(Ca/Al)、ケイ酸(Na/Mg)といったガラス系素材を核に酸化チタンやシリカや酸化スズなどを組み合わせた複合粉体や、アルミ箔をPETフィルムで挟んだ(PET/Al/エポキシ樹脂)ラミネートなど、複雑な反射でパール光沢を発するさまざまな粉体が作られている。

マイカやガラスを核にして屈折率の異なる複数の素材で被覆したパール顔料

6.4 天然色素

動植物から得られる着色成分。多くは肌に対する着色効果が低く、耐光性、耐熱性に難があるためメイクアップ化粧品ではほとんどつかわれない。肌に対する着色効果が不要なスキンケア製品で製品だけを着色する目的で使われることが主な用途である。化粧品では「キハダ樹皮エキス」、ニンジンの色素成分として有名な「カロチン」、ビタミンB2の別名「リボフラビン」、糖類を加熱処理して作る「カラメル」などが使われる。

動植物から抽出する成分の場合は、色素成分以外にさまざまな不純物が残留する可能性があり、その中にはアレルゲンとなりうるものもある。たとえば平成24年5月11日厚労省薬食審査発0511第1号「コチニール等を含有する医薬品、医薬部外品及び化粧品への成分表示等について」で『コチニール(カルミン酸)及びカルミンについては、不純物として含有するタンパク質に起因すると推定されるアナフィラキシー反応の発現が報告され』『注意喚起のための表示の整備を行うことと』なったのは記憶に新しい。

しかし「合成」よりも「天然」という文字に安心感や信頼感をもつ消費者が多いこともまた事実であり、実質的な安全性の担保と感覚的な安心感の担保のバランスからタンパク質の残存が極めて少ないまたはない成分や、天然にも存在する色素の合成物などが用いられるようになっている。

6.5 体質粉体

「希釈」「増量」「感触改善」などを目的とした肌に対する着色効果のない粉体成分は、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどかつては無機材料しかなかったため、無機顔料の中に「体質顔料」という名前で分類されてきた。

しかしこのような役割を果たす粉体が有機高分子(プラスチック)、シリコーンなど無機以外の素材でも作られるようになったため「体質粉体」という名前でまとめて、無機顔料とは別に分類することもある。

6.5.1 無機粉体

従来から体質顔料と分類されているタルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどが該当する。

6.5.2 有機高分子粉体

有機高分子(いわゆるプラスチック)で作られ、色の希釈や増量、感触調整などを主な目的とする水、油、アルコールなどに不溶の肌に対する着色効果のない粉体。表面が滑らかな球状に製造できることから、すべりの良さを中心とした感触向上目的のものが多く開発されている。化粧品ではポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ナイロンなどがよく使われている。シルクは体質粉体という考え方がなかったころは便宜上(無機顔料の中の)体質顔料に入れられていることが多かったが

6.5.3 シリコーン粉体

シリコーンで作られ、色の希釈や増量、感触調整などを主な目的とする水、油、アルコールなどに不溶の肌に対する着色効果のない粉体。シリコーン独特の撥水性、スベリの良さ、弾力性などを特徴とする感触改善が主な目的であり、化粧品ではポリメチルシルセスキオキサン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー、(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/シルセスキオキサン)クロスポリマーなどがある。