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日本化粧品成分表示名称事典 第3版

2001年4月から化粧品は全成分リスト表示が義務付けられている。配合している全ての成分の名前を原則として配合量順にずらずらずらーっと箱に書き並べるんだな。このとき使用する成分の名称は業界団体(日本化粧品工業連合会)が作成している「化粧品の成分表示名称」を採用するのが基本。なにか新しい成分を化粧品に配合したいときは粧工連に名称案を申請すると審議の上で正式な表示名称を決めてくれる。

粧工連が作成した表示名称がある程度たまると業界団体加盟の各社に黄色い表紙の小冊子「化粧品の成分表示名称リストNo.○○」が配布される(オレ通称:黄色い本・・・・・そのまんま)。この小冊子には巻末に過去発表分の正誤表もついてくることがある。届いたらまずは巻末の正誤表をみて過去の小冊子の該当部分を赤ペンで修正しておくと幸せになれる。

黄色い本がある程度たまると今度は「日本化粧品成分表示名称事典」という分厚い本にまとめられる。これには黄色い本には載ってない細かい情報も掲載されているし、それまでの正誤表もちゃんと反映されている。こいつが出版されればそれまでに配布された黄色い本は基本的には不要になる。

ところで、最新の黄色い本が配布されたのが2011年12月。それまでは半年に1回くらいのペースで黄色い本が配布されていたのに2011年末を最後に音沙汰なし。2011年以降は新しい成分名の申請がないってことではない、わけではない、ような気がしないわけでもないようなわけでもないと思わないわけでもない・・・・・・えっと、新規表示名称の申請は続いているし名称の追加も随時行なわれている。名称を申請した会社には決定通知書が届くが、それ以外の会社は黄色い本が配布されるのを待ってんだから早く配布してくれよ、と思う。粧工連はなにやってんだ?仕事しろよ、と外野のオレとか私とかオマエとかは思う。思うだろ、思うよな。まあそんなこと言うなよ。あっちだっていろいろ大変なんだよ。

なにが大変なのかっていうと、ここからは想像だけどね。米国の化粧品業界団体はINCI (International Nomenclature Cosmetic Ingredients) という成分名称を作成している。米国の業界団体なのに「International」って付けちゃうところがいかにも世界の警察を自認するだけのことはあるなとニヤニヤしちゃうんだけど、実際 INCI は各国で広く採用されている。日本も2001年の全成分表示開始にあたって INCI の採用が検討されたんだけど、やっぱり英語で成分名がズラズラズラっと書かれても英検4級のオレやTOEICを受ける気すら起きないオレやTOEFLが必修になる前に大人になってよかったと胸をなで下ろしているオレにはさっぱりワカランチーなわけだよ。そんなオレのために日本の業界団体は INCI と対応する日本語の名称を作成することにしてくれたのさ。オレ偉大。だから基本は INCI でそれに日本式名称を作成するという流れ・・・・のはずなんだけどね、このブログで過去に何度もグチグチと愚痴ってるから詳細は抜くけど粧工連は INCI に対応する名称を作るという方針を立てたのに、名称管理のルールが米国「上書き」で日本「追記」と別々の方式になってる。これがのちのちになってボディブローのように効いてきて(ボディブローってジワジワとくるの?オレひ弱だから一発で轟沈だけどね、あ、どうでもいいですね)今や INCI と表示名称の関係性はほぼ破綻している。INCI と対応するはずなのに根本となる名称管理のルールが日米で異なってるのでどんどんズレが蓄積してしまっている。もはや修正不可能ではないかと思える状況。

たぶんね、粧工連もいよいよもって苦しくなってきたんだと思う。INCIとズレズレにズレまくった状況をどう打破したらいいのか。ま、外野のオレとか私とかオマエとかは「ガラガラポンしちゃえよ」と思う。思うだろ、思うよな。まあそんなこと言うなよ。あっちだっていろいろ大変なんだよ。でもなあ、もうここまできたら小手先だけじゃムリだから、一から作りなおすくらいの勢いは必要な時期に来ちゃってるんじゃないかな、と外野のオレとか・・・・あ、もういいですか?

たぶん INCI と表示名称のズレズレが苦しくなって、黄色い本の配布が止まってしまってる。黄色い本が出ないことには、それの集大成である日本化粧品成分表示名称事典の最新版も出ない。日本化粧品成分表示名称事典第2版が発行されたのが2005年。第2版では7,000件ほどの表示名称が掲載されているがそれから8年が経ち今や表示名称は10,000件を超えている。ズレズレの状況を早く打開して黄色い本の配布を再開し、日本化粧品成分表示名称事典第3版の出版を急がなければ業界団体の存在意義に疑問符がつきかねない、と外野の・・・・。

そんなことをつらつらと思ってたら不意打ちの第3版発売決定。え?!黄色い本よりこっちが先かよ。だったらもっと早く出しとけよ、と小一時間ほど問い詰めたい(だ、誰を?)。もう予約したから来週になれば手元に届く。どんなことになってるのかワクワク。今まで通りなのか、方針の大転換なのか。変更内容によってはCosmetic-Info.jpも修正作業がどれほどになるのか。あーオレひとりでなんとかなる程度の変更ならいいけど。ガラガラポンしろとか言った舌の根も乾かぬうちになんなんですが、あの、粧工連様、ウチの会社が社員を雇えるほど儲かるまではあんまり大きな変更はご勘弁願えないでしょうか・・・・・・この通り、お願い!!いままで偉そうに愚痴ってすみません、ボク実は保守派なんです。現状維持万歳!あードキドキする。

エチルヘキサン酸の怪

 国内の化粧品では全成分表示が法律で義務づけられている。法律で決まっているのは「全成分を表示をする」ことだけで、どんな名称を使うかについては法的拘束力はない。だから勝手にステキな成分名をつけてキラキラ感満載の成分表をつくっても消費者に無用の誤解を与える内容でなければまあ問題ないっちゃ問題ない。しかし各社が勝手にやるとわけわからんことになるので日本化粧品工業連合会(粧工連)が作成する「化粧品の成分表示名称リスト」に書かれている名称を使用するというのが業界ルールになっている。そして多くの会社がこのリストに基づいて成分表を作成している。

 つまり粧工連が作成している「化粧品の成分表示名称リスト」は法的強制力はないもののそれに近い影響力を持っている。だからこのリストが右往左往すると業界が右往左往してしまう(正確には薬事担当者が右往左往して、その周辺の技術系社員や版下作成担当者がブルンブルン振り回されて第二宇宙速度を超えてしまう人もいるとかいないとか)。

 さて、これから始まる本日のグチを理解するために押さえておきたい知識をひとつ挙げておく。

  • 粧工連は作成した表示名称のひとつひとつに成分番号(6桁の数字)を付けて整理している。

 まず日本化粧品成分表示名称事典の【第1版】を持っている人は350ページを開いて「トリオクタン酸トリメチロールプロパン」を探してほしい。この表示名称は成分番号551877として登録されていることが確認できる。

 次に日本化粧品成分表示名称事典の【第2版】を持っている人はその「トリオクタン酸トリメチロールプロパン」を探してほしい。実はどこにも載ってない。成分番号551877の表示名称は「トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン」と名前を変えて431ページに掲載されている。

 第1版で「トリオクタン酸トリメチロールプロパン」が第2版では「トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン」に表示名称が変更になっている。ところが、粧工連のホームページでは「トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン」を探しても載っていない。今も「トリオクタン酸トリメチロールプロパン」のままだ。

 で、どっちなの。名称が変わったの?変わってないの?

 粧工連は欧米標準のINCIに準じて表示名称を決めている。この成分の表示名称が決められた2000年当時INCIでは炭素6個の2位から炭素2個が分岐している構造をOctane(オクタン)と呼んで”Trimethylolpropane Trioctanoate”という名称をつけていた。本来Octaneは炭素8個が直列している構造をさす用語であり、分岐しているこの成分の構造はEthylhexane(エチルヘキサン)という用語をあてるべきである。しかし当時のINCIでは慣用的にOctaneという用語をあてていた。そこで粧工連もこの構造に「オクタン」をあてて「トリオクタン酸トリメチロールプロパン」という名称を決定した。

 ところが粧工連がトリオクタン酸トリメチロールプロパンという名称を決定した直後、当のINCIではOctaneは成分の化学構造を正しく表しておらず誤解を生じるとして”Trimethylolpropane Trioctanoate”を”Trimethylolpropane Triethylhexanoate”に改称してしまった。その結果、日本化粧品表示名称事典第1版が出版されたときには「Trimethylolpropane TriethylhexanoateというINCIに対して日本ではトリオクタン酸トリメチロールプロパンという表示名称を付けました」という日本だけおバカさんにみえる状況になってしまった。

 で、ここからややこしいことになってくる。第1版の出版から4年後、日本化粧品表示名称事典第2版の出版に際してトリオクタン酸トリメチロールプロパンはトリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパンに改称されていた。ところが粧工連には「一度作成した表示名称は何があっても変更しないし削除もしない」というルールがある。このルールに従えばトリオクタン酸トリメチロールプロパンを改称してはいけなかったことになる。ルールに従うならトリオクタン酸トリメチロールプロパンは改正表示名称ができましたよという注釈を付けた上で放置してトリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパンという表示名称を追加するのが正解ということになる。たとえば、オクタン酸セチルはこのルールに則って処理されている(オクタン酸セチルには改正表示名称がありますよという注釈を付けて放置し、エチルヘキサン酸セチルを追加登録している)。

 これは私の想像だからホントのところは全然わからないが、オクタンをエチルヘキサンに変更するのだけは例外として実施したいという考えと、どうであろうと変更はしないという考えが粧工連内部で混ぜこぜになってるんではないだろうか。粧工連関係者に話を聞くと人によって言うことが違うし、第2版で変更になっているのにホームページのデータは変更になっていないことも説明がつく。

 どっちでもいいんだけど、どっちかに決めてもらわないと困るんだよね。どっちつかずというのが一番悪い。どうしたもんか悶々とした日々を過ごしている薬事担当者が多いんじゃないだろか。私も悶々としている。

 ところで悶々としている薬事担当者に朗報。ここにきてルール堅持で確定と思える状況がでてきた。最新の表示名称追加分リストに以下の表示名称が出てきた。

  • エチルヘキサン酸アルキル(C12-15)(成分番号562731)
  • エチルヘキシルグリセリン(成分番号558813)
  • セバシン酸ジエチルヘキシル(成分番号560098)
  • トリエチルヘキサノイン(成分番号562335)
  • トリエチルヘキサン酸トリメチロールプロパン(成分番号562779)

 日本化粧品成分表示名称事典の第2版を正とするなら、これらの名称は全て重複してしまうので追加されないはず。しかし実際に追加リストにこれらが登場したということは第2版での名称変更は否定されたことが前提になる。えーっ、Cosmetic-Info.jpは日本化粧品表示名称事典準拠でやってるんだよなあ。厄介だなあ。

 日本化粧品表示名称事典第2版が出版されてからもう7年近く経つ。もういいかげん第3版が出てもいいだろう。第2版で名称変更された表示名称たちが第3版でどのように扱われるか確認してCosmetic-Info.jpの対応も再考しよう。はあぁぁぁぁ・・・・・(深いため息)

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