「化粧品」カテゴリーアーカイブ

SIGNIFICANCE TEST

A、B、C、Dという4つの化粧品を設計して、現行品Eも含めて効果を測定して有意差検定を行なった。A, E間に有意差はみられなかった。B, E間、C, E間にも有意差はみられなかったが、D, E間にぎりぎりではあるが5%有意差が見られた。おおっ、やったぜカアチャン、明日はホームランだ。研究討論会で「開発品Dは現行品Eに対して有意に効果があることを確認しました。」と自慢げに発表したところ、ケチがついた。「それ、ホントに有意に差があったって言えるの?」

はあ?何言っちゃってんの。5%有意差って言ったじゃんよ。聞いてなかったの?ゴ・パーセントゆ・う・い・さ。ユー・アンダスターン?

ホントは差がないにも関わらず偶然そんな差が出てしまう確率を求める。偶然発生する確率が5%以下なら「ホントは差がないのに偶然そんな差が出た」という仮説は棄却され、すなわち「その差は意味が有る差だ」ということになる。

つまりDとEの差は偶然起きる確率が5%以下なのよ、わかる?だからもうこれは偶然じゃないの。意味があるのよ。開発品Dは現行品Eよりも有意に効果的なの。ユー・アンダスターン?

でも5%って20分の1だろ。20回に1回は偶然起きてもおかしくないってことだよな。君は「AとEの間に20回に1回しか起きない偶然の差は出てないかなあ」「BとEの間に20回に1回しか起きない偶然の差は出てないかなあ」「CとEの間に20回に1回しか起きない偶然の差は出てないかなあ」と偶然の出会いを求めてとうとう4回目の「DとEの間に20回に1回しか起きない偶然の差は出てないかなあ」という挑戦でみごとその偶然を引き当てただけなんじゃないの? 4回目も挑戦して偶然発生確率5%の結果を引き当てたとか言われても、それってホントは5%有意差って言えないんじゃない?

ドンガラガッシャン!!

たとえばサイコロを2個投げて両方3が出る投げ方をいろいろ考えたとする。右手の甲で投げてみる。左手の人差し指と中指で投げてみる。右足でつまんで投げてみる。口から吹き出してみる・・・・いろんな投げ方を試すうち10回目に背中に乗せて投げてみたらとうとう両方3が出た。偶然そうなる確率が36分の1しかない現象が背中に乗せてから投げる方法の時に起きた。これはもはや偶然ではないといえる。だから「背中に乗せて投げると他の投げ方とくらべてサイコロが両方3になりやすい」とか結論付けされても困るだろ? 偶然起きる可能性があるってことは何度も試せばいつかは偶然起こるってことだよ。5%有意差なんてその程度のものなんだからあんまり軽々しく使わない方がいいんじゃない?

ひー、すみません、すみません。お許しくださいお代官様。私が悪うございましたぁ。

PRESERVATIVE FREE

2006年04月11日に@cosmeビジネスナビというサイトに掲載したコラムを転載。

 「無添加化粧品」。インターネットで検索すると実に多くのブランドがこの概念を冠して販売されているのがわかります。公式な定義づけがされている用語ではないんですが「旧表示指定成分を配合していない化粧品」がもっとも一般的な無添加化粧品の定義でしょう。ところで、若い化粧品技術者の中には(かくいう私も十分若輩者ですが)表示指定成分を知らない人もいるかもしれないので簡単に説明しておきます。表示指定成分とは、その昔厚生省が皮膚トラブルを起こす可能性が高いものとしてリストアップした化粧品用成分のことで、それら成分を配合した場合には念のためにパッケージにその成分名を記載することが義務づけられていました。パラベンなんかがその代表例で、パッケージに「表示指定成分 パラベン」などと書いていました。無添加化粧品というのは厚生省が要注意であるとしたこれら表示指定成分を一切配合しないことを特徴とした化粧品・・・・というのが一般的な定義になります。

 ところが、皮膚トラブルを起こしやすいと思われていた成分が精製技術の向上によって不純物を取り除けるようになったらその後ほとんど皮膚トラブルを起こさなくなったり、そもそも皮膚トラブルとかアレルギーの原因となる成分は人によって実にさまざまであることがわかってくるにつれ表示指定制度の意義と実態との乖離が問題視され、化粧品は2001年4月から全成分表示制度へ移行しました。とにかく入っているものは全部書くという現在の制度で、消費者が自分の体質に合わせて化粧品を選択することができるようになったわけです。これによって表示指定制度は廃止されたので「無添加」の定義は「旧」表示指定成分無添加ということになります。根拠となる法制度が失われた無添加化粧品ですが、インターネットで検索すると現在でも実に多くのブランドが存在することがわかります。すでにその根拠からは独立した安心の象徴として無添加が認知されているからなのでしょう。

 ところが実際に無添加化粧品を設計しようとすると、なにしろ古いしかも廃止された法律に基づいている概念ですから慣れないと意外な落とし穴にはまります。

 厚生省が作成していた旧表示指定成分と粧工連が作成している化粧品の成分表示名称では同じ成分であっても名称が異なっていることが多いのです。例えば種別許可の時代にトコフェロール(ビタミンE)は「dl-α-トコフェロール」「d-α-トコフェロール」「天然ビタミンE」の3種類が定義されていました。この中で表示指定だったのは「dl-α-トコフェロール」だけです。ところが粧工連が作成している化粧品の成分表示名称ではこれらは全て「トコフェロール」という名称に統合されています。dl-α-トコフェロールでもd-α-トコフェロールでも天然ビタミンEでも結局トコフェロールという化学物質であることはどれも同じだということでしょう。とは言うものの、dl-α-トコフェロールだけは表示指定成分だったので、もし無添加化粧品を設計するなら「トコフェロール」をいっさい使わないか、使うならそのトコフェロールは旧法でいうところの「dl-α-トコフェロール」に該当しないことを確認しておかなければなりません。

 この程度なら気づきやすいんですが、

化粧品の表示指定成分リストでの名称 化粧品の成分表示名称
カンタリスチンキ マメハンミョウエキス
イソプロピルメチルフェノール シメン-5-オール
ノナン酸バニリルアミド ヒドロキシメトキシベンジルノナミド
塩化アルキルトリメチルアンモニウム 水添パームトリモニウムクロリド

ここまでくると気づいてラッキーだくらいになる。すでに7000件を超えている化粧品の表示名称の定義から旧法の表示指定成分に該当するものを探し出すのは実に骨の折れる作業です。しかも化粧品の表示名称は年に1000件前後のペースで増え続けています。新しい表示名称イコール新しい成分とは限らない。脂肪酸の種類を規定していない場合、目新しい脂肪酸を使った新成分も定義上は旧表示指定成分に該当してしまうこともある。原料メーカーはいまさら古い法律との整合性にいちいち気を使ってくれなくなってきているし、表示指定制度の風化と増え続ける表示名称との間で無添加化粧品の設計は徐々に複雑化している。

 ていうか、無添加の定義を変えちゃうとか、別の概念を作った方が早いんじゃないの?ってのは、なし?

CARRY OVER

2006年1月に@cosmeビジネスナビというサイトに書いたコラムを転載

化粧品原料には品質保持や品質向上のために少量の防腐剤や酸化防止剤、分散性向上剤などが添加されている場合があります。これらの成分をキャリーオーバー成分または単にキャリーオーバーと呼ぶことがあるのですが、厳密にはちょっと違います。このちょっとの違いがいろいろとやっかいな問題を引き起こすことがあるんです。

まず、キャリーオーバーの定義をしたいと思います。私がよりどころとしているのは平成11年5月26日粧工連の「化粧品の全成分表示記載のガイドライン」です。ここでキャリーオーバーとは『原料保存のために添加される防腐剤、酸化防止剤等の成分で、製品中に移行したとき、その移行量が極めて微量であり、製品中においてその効果を発揮しない』成分と定義されてます。たぶんほとんどの方もこれがキャリーオーバーの定義として認識されていると思います。例えばある原料に少量の防腐剤が配合されていたとして、化粧品に配合されたときにはその防腐剤は十分に薄まってすでに防腐剤としての役割を果たさなくなっている場合、この原料に添加されていた防腐剤はキャリーオーバーであると考えることができます。そして、キャリーオーバーは(役目を果たさないほど希釈されているので)全成分リストに記載する必要がなくなります。

ここで注意しなければならないのはキャリーオーバーであるかどうかは、その成分が商品になったときに役に立たないほど薄まっているかどうかで決めなければならないという点です。原料の状態ではそこに含まれている品質保持剤がキャリーオーバーであるかどうかは決められないのです。例えば「ヒアルロン酸Naの1%水溶液」という原料を購入し、それをそのまま小型容器に詰め替えて「ヒアルロン酸原液100%」ってな商品を売るとしましょう。この場合、原料のヒアルロン酸Na水溶液に原料の品質保持目的で防腐剤が添加されていたとすると、この防腐剤は化粧品中でも明らかに防腐剤としての役割を果たすのでキャリーオーバーにはなりません。パッケージには「水、ヒアルロン酸Na、メチルパラベン」などと原料に含まれている品質保持成分も記載しなければならないのです。

これ、知ってる人にはもう当たり前田のクラッカーって感じで何をイマサラ・・・なんですが、化粧品に縁遠い会社や海外のメーカーの中には「原料の品質保持剤=キャリーオーバー=開示義務なし」と誤解されていて、原料情報に品質保持剤を申告してくれないことがあります。これがのちのち厄介な仕事を増やす原因にもなりかねないので注意しましょう。

私が以前ある原料を採用しようと考えていたときのことです。経験上この原料にはおそらく何らかの酸化防止剤が添加されているはずと思ってたのですが、メーカーからいただいた資料には何も書いてありませんでした。メーカーに再度の確認をお願いしたところ、トコフェロールを酸化防止剤として添加しているとの回答がありました。それで、資料の成分表に主成分以外にトコフェロールも記載してくださいとお願いしたところ、それはできないとの回答をいただいたのです。メーカーの主張はこうです。この原料はCTFAでZZZZZというINCIを付与されている。INCIは原則として「原料」に対して与えられるので、この原料が含有する全ての成分を包括してZZZZZというINCIが与えられている。そしてZZZZZというINCIに対して粧工連は××××という表示名称を与えている。だからこの原料は××××という表示名称の原料であってトコフェロールはこれに含まれているから別途記載する必要はない。というのです。まあ、こちらもいろいろと言いたいことはあったのですが、若輩者でしたし(あ、今も十分若輩者です)、水掛け論になりそうだったので、とりあえずトコフェロールが入っていることを口頭で確認して引き下がりました。

この場合は、添加剤が含まれていることに気がついたし、結局入っていたのはトコフェロール(天然ビタミンE)だったのでたいした問題ではなかったのですが、例えば添加されていた品質保持剤が国内で配合が許可されていない成分や毒性が疑われる成分だったら。そんな可能性もないわけではありません。最近では化粧品を分析会社に持ち込んで添加剤の分析をしてしまう消費者も多いです。改正薬事法では販売者責任が強く打ち出されており、販売者が原料に含まれる添加剤について把握できていないと思わぬ突っ込みにワタワタすることになりかねません。そのためにも原料メーカーの情報開示が適切に行なわれているかどうかは重要になります。その原料に何が使われているか今一度ご確認を。