「化粧品」カテゴリーアーカイブ

PRESERVATIVE FREE

2006年04月11日に@cosmeビジネスナビというサイトに掲載したコラムを転載。

 「無添加化粧品」。インターネットで検索すると実に多くのブランドがこの概念を冠して販売されているのがわかります。公式な定義づけがされている用語ではないんですが「旧表示指定成分を配合していない化粧品」がもっとも一般的な無添加化粧品の定義でしょう。ところで、若い化粧品技術者の中には(かくいう私も十分若輩者ですが)表示指定成分を知らない人もいるかもしれないので簡単に説明しておきます。表示指定成分とは、その昔厚生省が皮膚トラブルを起こす可能性が高いものとしてリストアップした化粧品用成分のことで、それら成分を配合した場合には念のためにパッケージにその成分名を記載することが義務づけられていました。パラベンなんかがその代表例で、パッケージに「表示指定成分 パラベン」などと書いていました。無添加化粧品というのは厚生省が要注意であるとしたこれら表示指定成分を一切配合しないことを特徴とした化粧品・・・・というのが一般的な定義になります。

 ところが、皮膚トラブルを起こしやすいと思われていた成分が精製技術の向上によって不純物を取り除けるようになったらその後ほとんど皮膚トラブルを起こさなくなったり、そもそも皮膚トラブルとかアレルギーの原因となる成分は人によって実にさまざまであることがわかってくるにつれ表示指定制度の意義と実態との乖離が問題視され、化粧品は2001年4月から全成分表示制度へ移行しました。とにかく入っているものは全部書くという現在の制度で、消費者が自分の体質に合わせて化粧品を選択することができるようになったわけです。これによって表示指定制度は廃止されたので「無添加」の定義は「旧」表示指定成分無添加ということになります。根拠となる法制度が失われた無添加化粧品ですが、インターネットで検索すると現在でも実に多くのブランドが存在することがわかります。すでにその根拠からは独立した安心の象徴として無添加が認知されているからなのでしょう。

 ところが実際に無添加化粧品を設計しようとすると、なにしろ古いしかも廃止された法律に基づいている概念ですから慣れないと意外な落とし穴にはまります。

 厚生省が作成していた旧表示指定成分と粧工連が作成している化粧品の成分表示名称では同じ成分であっても名称が異なっていることが多いのです。例えば種別許可の時代にトコフェロール(ビタミンE)は「dl-α-トコフェロール」「d-α-トコフェロール」「天然ビタミンE」の3種類が定義されていました。この中で表示指定だったのは「dl-α-トコフェロール」だけです。ところが粧工連が作成している化粧品の成分表示名称ではこれらは全て「トコフェロール」という名称に統合されています。dl-α-トコフェロールでもd-α-トコフェロールでも天然ビタミンEでも結局トコフェロールという化学物質であることはどれも同じだということでしょう。とは言うものの、dl-α-トコフェロールだけは表示指定成分だったので、もし無添加化粧品を設計するなら「トコフェロール」をいっさい使わないか、使うならそのトコフェロールは旧法でいうところの「dl-α-トコフェロール」に該当しないことを確認しておかなければなりません。

 この程度なら気づきやすいんですが、

化粧品の表示指定成分リストでの名称 化粧品の成分表示名称
カンタリスチンキ マメハンミョウエキス
イソプロピルメチルフェノール シメン-5-オール
ノナン酸バニリルアミド ヒドロキシメトキシベンジルノナミド
塩化アルキルトリメチルアンモニウム 水添パームトリモニウムクロリド

ここまでくると気づいてラッキーだくらいになる。すでに7000件を超えている化粧品の表示名称の定義から旧法の表示指定成分に該当するものを探し出すのは実に骨の折れる作業です。しかも化粧品の表示名称は年に1000件前後のペースで増え続けています。新しい表示名称イコール新しい成分とは限らない。脂肪酸の種類を規定していない場合、目新しい脂肪酸を使った新成分も定義上は旧表示指定成分に該当してしまうこともある。原料メーカーはいまさら古い法律との整合性にいちいち気を使ってくれなくなってきているし、表示指定制度の風化と増え続ける表示名称との間で無添加化粧品の設計は徐々に複雑化している。

 ていうか、無添加の定義を変えちゃうとか、別の概念を作った方が早いんじゃないの?ってのは、なし?

CARRY OVER

2006年1月に@cosmeビジネスナビというサイトに書いたコラムを転載

化粧品原料には品質保持や品質向上のために少量の防腐剤や酸化防止剤、分散性向上剤などが添加されている場合があります。これらの成分をキャリーオーバー成分または単にキャリーオーバーと呼ぶことがあるのですが、厳密にはちょっと違います。このちょっとの違いがいろいろとやっかいな問題を引き起こすことがあるんです。

まず、キャリーオーバーの定義をしたいと思います。私がよりどころとしているのは平成11年5月26日粧工連の「化粧品の全成分表示記載のガイドライン」です。ここでキャリーオーバーとは『原料保存のために添加される防腐剤、酸化防止剤等の成分で、製品中に移行したとき、その移行量が極めて微量であり、製品中においてその効果を発揮しない』成分と定義されてます。たぶんほとんどの方もこれがキャリーオーバーの定義として認識されていると思います。例えばある原料に少量の防腐剤が配合されていたとして、化粧品に配合されたときにはその防腐剤は十分に薄まってすでに防腐剤としての役割を果たさなくなっている場合、この原料に添加されていた防腐剤はキャリーオーバーであると考えることができます。そして、キャリーオーバーは(役目を果たさないほど希釈されているので)全成分リストに記載する必要がなくなります。

ここで注意しなければならないのはキャリーオーバーであるかどうかは、その成分が商品になったときに役に立たないほど薄まっているかどうかで決めなければならないという点です。原料の状態ではそこに含まれている品質保持剤がキャリーオーバーであるかどうかは決められないのです。例えば「ヒアルロン酸Naの1%水溶液」という原料を購入し、それをそのまま小型容器に詰め替えて「ヒアルロン酸原液100%」ってな商品を売るとしましょう。この場合、原料のヒアルロン酸Na水溶液に原料の品質保持目的で防腐剤が添加されていたとすると、この防腐剤は化粧品中でも明らかに防腐剤としての役割を果たすのでキャリーオーバーにはなりません。パッケージには「水、ヒアルロン酸Na、メチルパラベン」などと原料に含まれている品質保持成分も記載しなければならないのです。

これ、知ってる人にはもう当たり前田のクラッカーって感じで何をイマサラ・・・なんですが、化粧品に縁遠い会社や海外のメーカーの中には「原料の品質保持剤=キャリーオーバー=開示義務なし」と誤解されていて、原料情報に品質保持剤を申告してくれないことがあります。これがのちのち厄介な仕事を増やす原因にもなりかねないので注意しましょう。

私が以前ある原料を採用しようと考えていたときのことです。経験上この原料にはおそらく何らかの酸化防止剤が添加されているはずと思ってたのですが、メーカーからいただいた資料には何も書いてありませんでした。メーカーに再度の確認をお願いしたところ、トコフェロールを酸化防止剤として添加しているとの回答がありました。それで、資料の成分表に主成分以外にトコフェロールも記載してくださいとお願いしたところ、それはできないとの回答をいただいたのです。メーカーの主張はこうです。この原料はCTFAでZZZZZというINCIを付与されている。INCIは原則として「原料」に対して与えられるので、この原料が含有する全ての成分を包括してZZZZZというINCIが与えられている。そしてZZZZZというINCIに対して粧工連は××××という表示名称を与えている。だからこの原料は××××という表示名称の原料であってトコフェロールはこれに含まれているから別途記載する必要はない。というのです。まあ、こちらもいろいろと言いたいことはあったのですが、若輩者でしたし(あ、今も十分若輩者です)、水掛け論になりそうだったので、とりあえずトコフェロールが入っていることを口頭で確認して引き下がりました。

この場合は、添加剤が含まれていることに気がついたし、結局入っていたのはトコフェロール(天然ビタミンE)だったのでたいした問題ではなかったのですが、例えば添加されていた品質保持剤が国内で配合が許可されていない成分や毒性が疑われる成分だったら。そんな可能性もないわけではありません。最近では化粧品を分析会社に持ち込んで添加剤の分析をしてしまう消費者も多いです。改正薬事法では販売者責任が強く打ち出されており、販売者が原料に含まれる添加剤について把握できていないと思わぬ突っ込みにワタワタすることになりかねません。そのためにも原料メーカーの情報開示が適切に行なわれているかどうかは重要になります。その原料に何が使われているか今一度ご確認を。

化粧品には原則として医薬品の成分は配合不可

化粧品の配合成分は2001年4月以降原則自由。企業の責任において選択できるようになりましたが、いくつかの制限が残っています。列記するとおおむね次の通りかと。

  • 医薬品の成分は配合禁止。例外:旧化粧品種別許可基準に収載の成分、2001年4月より前に化粧品の配合成分として承認を受けているものおよび薬食審査発第0524001号「化粧品に配合可能な医薬品の成分について」に収載の成分は医薬品の成分であってもその前例範囲内で配合可能。
  • 生物由来原料基準に適合しない原料、化審法の第一種特定化学物質/第二種特定化学物質、化粧品基準別表1(ネガティブリスト)の成分は配合禁止。
  • 化粧品基準別表2(ネガティブリスト)の成分は制限を守って配合する。
  • 防腐剤として使ってよいのは化粧品基準別表3(ポジティブリスト)に収載の成分だけ。
  • 紫外線吸収剤として使ってよいのは化粧品基準別表4(ポジティブリスト)に収載の成分だけ。例外:製品を保護するためだけに使われることがあきらかな場合は対象外(ただし、製品保護と人体保護を区別する基準はない)。
  • タール色素(有機合成色素)として使ってよいのは「医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令」の成分だけ。例外:赤色219号及び黄色204号については毛髪及び爪のみ。

「医薬品の成分」ってのがあいまいで怖い。基本的には「日本薬局方」に記載されている成分は医薬品の成分に該当すると考えておいた方がいい。厚生労働省医薬食品局審査管理課通知「医薬品の一般的名称について」というのが随時出ていて新しい医薬品の成分はここから取ることもできそう。ただし、単純に名称が一致しているかどうかだけでは見落とす可能性が高くて、怖い。さらに日本で使われたことがなく医薬品の成分と認知されていない成分でも海外で医薬品の成分として取り扱われているものであれば医薬品の成分とみなされる可能性もある。『A国では伝承医薬に用いられてきた高い効果が期待できる植物のエキスです』なんていう新規原料はよく調べたほうがいい。

いや「君子危うきに近寄らず」「石橋をたたいて渡る」くらいの方がいいかも。国内とくに大手企業の採用実績を確認できたものなら大丈夫とみなすのが現実的には一番簡単で確実なチェック方法かも。