CARRY OVER

2006年1月に@cosmeビジネスナビというサイトに書いたコラムを転載

化粧品原料には品質保持や品質向上のために少量の防腐剤や酸化防止剤、分散性向上剤などが添加されている場合があります。これらの成分をキャリーオーバー成分または単にキャリーオーバーと呼ぶことがあるのですが、厳密にはちょっと違います。このちょっとの違いがいろいろとやっかいな問題を引き起こすことがあるんです。

まず、キャリーオーバーの定義をしたいと思います。私がよりどころとしているのは平成11年5月26日粧工連の「化粧品の全成分表示記載のガイドライン」です。ここでキャリーオーバーとは『原料保存のために添加される防腐剤、酸化防止剤等の成分で、製品中に移行したとき、その移行量が極めて微量であり、製品中においてその効果を発揮しない』成分と定義されてます。たぶんほとんどの方もこれがキャリーオーバーの定義として認識されていると思います。例えばある原料に少量の防腐剤が配合されていたとして、化粧品に配合されたときにはその防腐剤は十分に薄まってすでに防腐剤としての役割を果たさなくなっている場合、この原料に添加されていた防腐剤はキャリーオーバーであると考えることができます。そして、キャリーオーバーは(役目を果たさないほど希釈されているので)全成分リストに記載する必要がなくなります。

ここで注意しなければならないのはキャリーオーバーであるかどうかは、その成分が商品になったときに役に立たないほど薄まっているかどうかで決めなければならないという点です。原料の状態ではそこに含まれている品質保持剤がキャリーオーバーであるかどうかは決められないのです。例えば「ヒアルロン酸Naの1%水溶液」という原料を購入し、それをそのまま小型容器に詰め替えて「ヒアルロン酸原液100%」ってな商品を売るとしましょう。この場合、原料のヒアルロン酸Na水溶液に原料の品質保持目的で防腐剤が添加されていたとすると、この防腐剤は化粧品中でも明らかに防腐剤としての役割を果たすのでキャリーオーバーにはなりません。パッケージには「水、ヒアルロン酸Na、メチルパラベン」などと原料に含まれている品質保持成分も記載しなければならないのです。

これ、知ってる人にはもう当たり前田のクラッカーって感じで何をイマサラ・・・なんですが、化粧品に縁遠い会社や海外のメーカーの中には「原料の品質保持剤=キャリーオーバー=開示義務なし」と誤解されていて、原料情報に品質保持剤を申告してくれないことがあります。これがのちのち厄介な仕事を増やす原因にもなりかねないので注意しましょう。

私が以前ある原料を採用しようと考えていたときのことです。経験上この原料にはおそらく何らかの酸化防止剤が添加されているはずと思ってたのですが、メーカーからいただいた資料には何も書いてありませんでした。メーカーに再度の確認をお願いしたところ、トコフェロールを酸化防止剤として添加しているとの回答がありました。それで、資料の成分表に主成分以外にトコフェロールも記載してくださいとお願いしたところ、それはできないとの回答をいただいたのです。メーカーの主張はこうです。この原料はCTFAでZZZZZというINCIを付与されている。INCIは原則として「原料」に対して与えられるので、この原料が含有する全ての成分を包括してZZZZZというINCIが与えられている。そしてZZZZZというINCIに対して粧工連は××××という表示名称を与えている。だからこの原料は××××という表示名称の原料であってトコフェロールはこれに含まれているから別途記載する必要はない。というのです。まあ、こちらもいろいろと言いたいことはあったのですが、若輩者でしたし(あ、今も十分若輩者です)、水掛け論になりそうだったので、とりあえずトコフェロールが入っていることを口頭で確認して引き下がりました。

この場合は、添加剤が含まれていることに気がついたし、結局入っていたのはトコフェロール(天然ビタミンE)だったのでたいした問題ではなかったのですが、例えば添加されていた品質保持剤が国内で配合が許可されていない成分や毒性が疑われる成分だったら。そんな可能性もないわけではありません。最近では化粧品を分析会社に持ち込んで添加剤の分析をしてしまう消費者も多いです。改正薬事法では販売者責任が強く打ち出されており、販売者が原料に含まれる添加剤について把握できていないと思わぬ突っ込みにワタワタすることになりかねません。そのためにも原料メーカーの情報開示が適切に行なわれているかどうかは重要になります。その原料に何が使われているか今一度ご確認を。