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6 着色剤 / 化粧品の成分

身体または化粧品に色をつけるために使われる成分が着色剤である。

一般的に着色剤は「無機顔料」「有機合成色素」「真珠光沢顔料」「天然色素」の4つに分類されるが、近年は新素材や複合素材などの登場によって、既存の分類にあてはめにくい着色剤や複数の分類にまたがるような着色剤が作られている。そのため着色剤の分類方法は参考書によって多少異なる場合がある。

着色剤の分類例

6.1 無機顔料

無機鉱物を用いた水・油・アルコールに不溶の着色用粉体が無機顔料である。かつては赤土や黄土などの天然鉱物を粉砕したものが使われていたことから天然成分と紹介されることもあるが、近年は不純物が少なく安定した品質で大量生産できる合成物が使われることが多い。

無機顔料はその発色によってさらに「着色顔料」「白色顔料」「体質顔料」に細分される。

6.1.1 着色顔料

無機顔料の中で有色の(肌に対する着色効果をもつ)ものが着色顔料である。白色のものを含む場合もあれば、白色のものは「白色顔料」として別に分類する場合もある。鮮やかさに欠けるものの、多くのものが熱や光に対して安定で褪色しにくいのが特徴。化粧品では酸化鉄、グンジョウがよく使われる。

酸化鉄は、鉄原子と酸素原子が結合した化合物いわゆる「鉄さび」のことである。鉄原子と酸素原子の結合状態によって発色に違いがあり、化粧品では黒色の黒酸化鉄(主にFe3O4)、赤色のベンガラ(主にFe2O3)、黄色の黄酸化鉄(主にFeOOHとFe2(OH)6)が使われている。国内で多く製造されているファンデーションのベージュ系の色は、黄酸化鉄(黄)にベンガラ(赤)を少し加えて、後述する酸化チタン(白)を加えることで設計でき、ベンガラの割合を増やせばピンク系に、酸化チタンを増やせばライトベージュ系に、黒酸化鉄(黒)をわずかに加えればオークル系に色味を調整できる。極めてざっくりとした説明にはなるがこのように黄、赤、白、黒の4色の無機顔料でたいていのファンデーションの色味は組み立てることができる。なお、医薬部外品では「黒酸化鉄」「ベンガラ」「黄酸化鉄」を別々の成分として扱うが、化粧品ではこれらを区別せず「酸化鉄」の表示名称でまとめている。

無機顔料の色のイメージと化粧品表示名称(カッコ内は医薬部外品での名称)

青系の無機顔料としては、グンジョウが有名である。工業的にはケイ酸、カオリン、炭酸ナトリウムなどの無機材料を素原料として混合し、焼成してできる複合スルホケイ酸アルミニウムナトリウムで、素原料の混合比や焼成する温度によって色調が異なる。グンジョウも医薬部外品では色調によってグンジョウ、グンジョウバイオレット、グンジョウピンクと別々の成分として扱っているが、化粧品では区別せず「グンジョウ」の表示名称にまとめている。グンジョウは酸性条件で安定性が悪く褪色するのでリキッドファンデーションなど水を含む処方に使用する場合は表面処理やpHに注意が必要である。

緑系の無機顔料としては、クロムと酸素が結合した酸化クロム(Cr2O3)が有名である。

6.1.2 白色顔料

無機顔料の中で白色のものが白色顔料である。ただし白色と他の色を別にする必要性がない場合は着色顔料に含める分類もある。

化粧品では酸化チタンがよく使われる。酸化チタンは非常に屈折率が高いため白度が高く安全性や価格に優れているため、化粧品分野だけでなく絵具や塗料、壁紙など幅広い産業分野で白色顔料として使われている。また、屈折率が高いことで紫外線散乱効果にも優れていることから化粧品では着色目的だけでなく紫外線散乱剤としても使われる。

酸化チタンには、強い光があたるとその光エネルギーによって励起された電子が表面に付着している物質に結合してこれを還元する性質がある。またこのとき電子が抜けた穴(正孔)は表面に付着している別の物質から電子を奪ってこれを酸化する性質もある。

酸化チタンが光のエネルギーを利用して表面に付着した物質を酸化したり還元したりする作用は光触媒作用と呼ばれ、太陽光など強い光が当たると表面の汚れやカビなどの有機物が分解される防汚性に優れた外壁表面材として実用化されている。

化粧品用の酸化チタンは光触媒作用を抑えるために表面をコーティングする

一方で身体に塗布する化粧品用成分にとっては光触媒作用は問題である。強い光を受けないと触媒作用は顕著には現れないが外出時に強い日差しを受けることは十分に考えられる。そこで化粧品に使用する酸化チタンは表面を反応性のない物質(シリカ、アルミナ、シリコーン、高級脂肪酸など)でコーティングすることが一般的である。そのため、酸化チタンを配合する化粧品の全成分リストには必ずと言っていいほどシリカ、水酸化Al、ハイドロゲンジメチコン、ステアリン酸などといった表面処理剤の成分名も同時に出てくる。

6.1.3 体質顔料

無機顔料の中で肌に対する着色効果をほとんどもたないものが体質顔料である。色を薄める「希釈剤」、粉体状化粧品を使いやすい量に調整する「増量剤」、感触をよくする「感触向上剤」といった目的で使われる。化粧品ではタルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどがある。

従来は色の希釈、増量、感触向上といった目的をはたす粉体は無機材料しかなかったため体質顔料は無機顔料の一部に分類されてきた。しかし近年は有機高分子やシリコーン、金属石けんなど無機以外の材料でも同様の目的の粉体が開発されている。これらは「材質」で分類すると「体質顔料」「有機高分子粉体」「シリコーン粉体」といった個別の分類になるが、希釈・増量・感触向上といった「目的」に着目して「体質粉体」としてまとめる分類方法もある。

色の希釈、感触向上、増量などの目的で使われる肌に対する着色効果のない粉体材料の分類について

6.2 有機合成色素

有機合成によって作られた着色剤の総称が有機合成色素である。

無機顔料は種類が少ないため色の数には限界がある。また水・油・アルコールなど何にも溶けないため使い方にも限りがある。無機顔料では実現できない微妙な色調や彩度の高い発色や幅広い用途への対応を求めて有機合成によって作られた着色剤が有機合成色素である。

有機合成色素の中には、石油石炭の生成過程で作られるタールに含まれる成分から合成したものがあるため、かつては「タール色素」と呼ばれていたが、タールを使って合成するものばかりではないため現在ではこの呼び方はあまり使われなくなっている。

繊維を着色する、紙を着色する、プラスチックを着色する、ゴムに着色する、インク用、ペンキ用、印刷用、金属塗装用・・・・無機顔料では実現できない色、無機顔料では着色できない物、色や用途ごとに実に多種多様な有機合成色素が作られて我々の世界のありとあらゆる場所を彩っている。

無数ともいえるほど種類がある有機合成色素だが、人体に塗布することを目的とする化粧品では、無制限に使っていいということはない。化粧品成分自由化の例外の一つがこの有機合成色素である。国内の化粧品に使用可能な有機合成色素は、医薬品を着色するために許可されている有機合成色素『医薬品に使用することができるタール色素を定める省令』(昭和41年8月31日厚生省令第30号)を準用して83種類に限定されている。この83種類の有機合成色素は、法律によって定められた色素という意味で「法定色素」とも呼ばれている。有機合成色素の表示名称は「黄4」「赤202」「青1」のように「色名+番号」という形式になっているのですぐにわかる。医薬部外品では個別の成分名ではなく「法定色素」とまとめて記載することもある。

化粧品に使用が許可されている有機合成色素は83種もあるが、長い歴史の中で安定性、安全性、他国規制との共通項、発色、使い勝手、価格などさまざまな観点から絞り込まれてきており、実際に使われているものはかなり少ない。特に輸出が化粧品産業にとって重要になった近年は、日米欧いずれの国でも共通して許可されている有機合成色素で設計をすることが求められるようになっている。しかし「化粧品に使用可能な有機合成色素」は日米欧でかなり考え方が異なっていて、成分の分類方法すら異なっているため日本のこの成分が米国や欧州のどの成分に対応するかというのも単純な1:1関係になっていない。そのため日米欧で共通して許可されている有機合成色素となるとかなり限られてくる。このような理由から、現在の化粧品においては「黄4」「赤202」が圧倒的に多数の化粧品で使用されており、ついで「赤201」「青1」「赤226」「黄5」「赤104(1)」「赤218」「赤227」「赤223」といった色素が使われている。おおむねこの10種類に集約されており、これら以外の有機合成色素はほとんど使われていない。

有機合成色素はその性質によって「有機顔料」「染料」に細分され、さらに染料にはレーキ処理と呼ばれる顔料化処理を施された「レーキ」もある。

6.2.1 有機顔料

有機合成色素のうち、水・油・アルコールに不溶の着色用粉体が「有機顔料」である。不溶性の粉なので無機顔料と区別なく同様に扱える利点がある。

6.2.2 染料

有機合成色素のうち、水・油・アルコールに溶けるものを「有機染料」または単に「染料」という。性質によって水溶性染料、油溶性染料、および酸化染料に分類され、化粧品では水溶性染料、油溶性染料のみが使われる。

染料、特に水溶性染料はそのまま使うのは難しいので後述するレーキ処理によって顔料化して使用することがほとんどである。

6.2.3 レーキ処理

水溶性染料は水に溶かすと酸性やアルカリ性を示すものが多く、そのまま使用すると化粧品のpHを大きく変化させたり、アミノ酸やヒアルロン酸Naなど他のイオン化合物と反応するなど使い勝手が悪い。そこで、水溶性染料の分子構造中のナトリウムイオンまたはカリウムイオンをカルシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオンなどで置換して顔料化したり、硫酸アルミニウムや硫酸ジルコニウムなどで処理して不溶性にしさらにアルミナに吸着させて顔料化するなどして使うのが一般的である。染料を顔料化するこのような処理を「レーキ処理」と呼び、レーキ処理で作られた着色剤をレーキ顔料や染料レーキまたは単に「レーキ」と呼ぶ。

印刷業界では、染料を体質顔料に染め付けて作る顔料をレーキ顔料、染料を金属と反応させて作る顔料をトナー顔料と呼ぶとか、米国では有機顔料と体質顔料を単純混合しただけのものまでレーキと呼ぶとか、レーキに関しては定義や分類が業界や国によって微妙に異なっているのでややこしい。化粧品設計では、染料を何らかの方法で顔料化したものを「レーキ」と呼ぶ、程度の認識があればおおむね問題ない。

しかしネットにはレーキ処理の存在を無視して、染料だから顔料だからと間違った情報や解説が散見されるのは困ったものである。

これらレーキを配合した化粧品の全成分リストには染料の成分名とともにレーキ処理に用いた水酸化Al、硫酸Ba、タルクなどの成分名が出てくることが多い。ただし、黄4、青1、黄5、赤104(1)といったレーキ化して使うことが一般的である染料はその成分の定義に『本品は、平成15年厚労省令第126号に示される[色素名]又はそのアルミニウムレーキ又はそのバリウムレーキ又はそのジルコニウムレーキである。』と書かれていて染料とレーキを区別してない表示名称もある。そのため、水酸化Al、硫酸Baといったレーキ処理物の名称が全成分リストに出てこないからといって、レーキ処理されてない染料そのままが使われているとは断定できないことにも留意が必要である。

6.3 真珠光沢顔料

真珠のような複雑な表面発色をする水・油・アルコールに不溶の粉体。パール顔料ともいう。古くは魚の鱗を原料とした「魚鱗箔」から始まり、近年は屈折率が異なる複数の素材を積層した複合粉体が主流になっている。

板状マイカを核に酸化チタンや酸化鉄の薄膜層を被覆した積層体であるマイカ/酸化チタン複合体(雲母チタン)や、ホウケイ酸(Ca/Al)、ケイ酸(Na/Mg)といったガラス系素材を核に酸化チタンやシリカや酸化スズなどを組み合わせた複合粉体や、アルミ箔をPETフィルムで挟んだ(PET/Al/エポキシ樹脂)ラミネートなど、複雑な反射でパール光沢を発するさまざまな粉体が作られている。

マイカやガラスを核にして屈折率の異なる複数の素材で被覆したパール顔料

6.4 天然色素

動植物から得られる着色成分。多くは肌に対する着色効果が低く、耐光性、耐熱性に難があるためメイクアップ化粧品ではほとんどつかわれない。肌に対する着色効果が不要なスキンケア製品で製品だけを着色する目的で使われることが主な用途である。化粧品では「キハダ樹皮エキス」、ニンジンの色素成分として有名な「カロチン」、ビタミンB2の別名「リボフラビン」、糖類を加熱処理して作る「カラメル」などが使われる。

動植物から抽出する成分の場合は、色素成分以外にさまざまな不純物が残留する可能性があり、その中にはアレルゲンとなりうるものもある。たとえば平成24年5月11日厚労省薬食審査発0511第1号「コチニール等を含有する医薬品、医薬部外品及び化粧品への成分表示等について」で『コチニール(カルミン酸)及びカルミンについては、不純物として含有するタンパク質に起因すると推定されるアナフィラキシー反応の発現が報告され』『注意喚起のための表示の整備を行うことと』なったのは記憶に新しい。

しかし「合成」よりも「天然」という文字に安心感や信頼感をもつ消費者が多いこともまた事実であり、実質的な安全性の担保と感覚的な安心感の担保のバランスからタンパク質の残存が極めて少ないまたはない成分や、天然にも存在する色素の合成物などが用いられるようになっている。

6.5 体質粉体

「希釈」「増量」「感触改善」などを目的とした肌に対する着色効果のない粉体成分は、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどかつては無機材料しかなかったため、無機顔料の中に「体質顔料」という名前で分類されてきた。

しかしこのような役割を果たす粉体が有機高分子(プラスチック)、シリコーンなど無機以外の素材でも作られるようになったため「体質粉体」という名前でまとめて、無機顔料とは別に分類することもある。

6.5.1 無機粉体

従来から体質顔料と分類されているタルク、カオリン、マイカ、セリサイト、シリカなどが該当する。

6.5.2 有機高分子粉体

有機高分子(いわゆるプラスチック)で作られ、色の希釈や増量、感触調整などを主な目的とする水、油、アルコールなどに不溶の肌に対する着色効果のない粉体。表面が滑らかな球状に製造できることから、すべりの良さを中心とした感触向上目的のものが多く開発されている。化粧品ではポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ナイロンなどがよく使われている。シルクは体質粉体という考え方がなかったころは便宜上(無機顔料の中の)体質顔料に入れられていることが多かったが

6.5.3 シリコーン粉体

シリコーンで作られ、色の希釈や増量、感触調整などを主な目的とする水、油、アルコールなどに不溶の肌に対する着色効果のない粉体。シリコーン独特の撥水性、スベリの良さ、弾力性などを特徴とする感触改善が主な目的であり、化粧品ではポリメチルシルセスキオキサン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー、(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/シルセスキオキサン)クロスポリマーなどがある。

5 界面活性剤 / 化粧品の成分

親水基と疎水基(親油基)で構成される両親媒性化合物が「界面活性剤」である。

界面活性剤の分子構造概略図

親水基は水に溶けようとし、疎水基(親油基)は油に溶けようとするため、水と油が共存する系では、界面活性剤は自然と水と油の界面に集まる。水と油の境目に勝手に集まるこの性質は界面活性剤の最大の特徴である。

界面活性剤の性質
(水と油の境目に自然と集まって膜を作る)

水と油の界面に集合した界面活性剤は遠目に見れば片面が親水性、もう片面が親油性の性質を持った1枚の薄い膜とみることができる。界面活性剤は水と油の境目に勝手に集まり薄膜を形成し、水と油を分けた状態にできる。

5.1 界面活性剤と乳化

水と油が共存する系を強く攪拌すると混合状態になる。セパレートタイプのドレッシングを強く振り混ぜた状態と同じである。ところが、この混合状態はすぐに元の分離状態へ戻ってしまう。その理由と、混合状態が長く維持される乳化現象について説明する。

水分子と水分子の間には水素結合による強い引力が働くが、水分子と油分子の間にはほとんど引力は生じない。

水分子同士には図中の黄線のような互いを引き寄せる力(水素結合)が働く
水油混合系の簡易シミュレーション。
水分子-水分子間には引力が働くが、水分子-油分子間には引力も反発力も生じない。

このため水分子同士が集まろうとし、油分子は結果的に押し出される格好となり、水と油に分離する。なお、水分子-水分子間力と水分子-油分子間力のように2つの分子間力に大きな差がある状態を「界面張力が高い」と表現する。

水分子同士だけが集まろうとして結果的に油は押し出される。

さて、水と油を強く攪拌して混合状態にしたところに今度は界面活性剤を加えた場合はどうなるだろうか。界面活性剤は水と油が共存する系では自然とその界面に集合して膜を形成するので、界面活性剤は油滴の表面(水と油の界面)に集合して膜を形成する。

界面活性剤が水と油の界面に集合して膜を形成する

水と油の分離は、水分子-水分子間の引力と水分子-油分子間の引力の差が大きいことに起因している(水同士だけが集まろうとする力で油が押し出される)ことは先に述べたとおりである。しかし、界面活性剤が水と油の界面に集合して膜を形成すると水と油が分断され、状況が大きく変わる。水分子-水分子間の引力と比較する相手が、水分子-油分子間の引力ではなく、水分子-界面活性剤(の親水基)間の引力に替わる。界面活性剤の親水基部分は水素結合性を有する構造(水に溶けやすい構造)なので、水分子と界面活性剤の間にも水素結合が生じる。

水分子と界面活性剤の親水基との間には水素結合が生じるので界面張力が低下する。

水分子-界面活性剤(の親水基)間にも引力が働くため両者の力の差は小さくなり、水と油の混合状態が安定化する。水分子-水分子間の引力と水分子-界面活性剤(の親水基)間の引力のように分子間力の差が小さい状態を「界面張力が低い」と表現する。

もともとは混ざり合わない2種の液体が長時間均一に混ざった状態を「乳化」という。界面活性剤は水と油の間に両親媒性の膜を作ることで界面張力を低下させ、長時間にわたって水と油が均一に混合した乳化状態を作ることができる。2種の液体が均一に混ざった状態を長時間維持できる界面活性剤のこの性質は、化粧品において「洗浄」「乳化」「分散」といった役割を果たすために活用される。

ちなみに、油分子同士の間にはほとんど引力は生じないのだが、水と油が分離する様子は、油分子同士にもなにか引力のようなものが働いているかのようにも見える。実際には水分子同士の引力によってただ押し出されているだけで油分子同士に何の相互作用もないにも関わらず、水の存在下では油同士にも引力が発生しているかのように見えるこの現象を「疎水性相互作用」という。

5.2 界面活性剤の種類

界面活性剤は、親水基のイオン性によって4種類に分類されており、それぞれ特徴的な性質があり、その特徴を活かした使われ方をしている。

  • 親水基がマイナスイオンになっている界面活性剤:アニオン界面活性剤(陰イオン界面活性剤)
  • 親水基がプラスイオンになっている界面活性剤:カチオン界面活性剤(陽イオン界面活性剤)
  • 親水基がpHによってマイナスになったりプラスになったりする界面活性剤:両性界面活性剤
  • 親水基がイオン化しない界面活性剤:ノニオン界面活性剤(非イオン界面活性剤)

5.3 アニオン界面活性剤

親水基がマイナスイオンになっている界面活性剤を総称してアニオン界面活性剤という。主にカルボキシ基(-COOH)、硫酸基(-SO4H)、スルホン酸基(-SO3H)を有し、ナトリウムまたはカリウムとイオン結合している化合物が使われる。水に溶解した時にナトリウムまたはカリウムがプラスイオンになって電離し、反対側の部分がマイナスイオンを有する界面活性剤になる。両親媒性ではあるがイオン性をもつため水への溶解性が非常に高いのが特徴で、その性質を活かして水の中にすばやく油汚れを混合して洗い流す洗浄剤として使われることが多い。

5.3.1 高級脂肪酸アルカリ金属塩(石ケン)

高級脂肪酸ナトリウム塩(石ケン素地)
水中では右のように電離してアニオン界面活性剤になる
高級脂肪酸カリウム塩(カリ石ケン素地)
水中では右のように電離してアニオン界面活性剤になる

高級脂肪酸アルカリ金属塩は「高級脂肪酸+アルカリ金属」の構造を持つ、一般には「石ケン」と呼ばれている化合物の総称である。アルカリ金属はほとんどの場合ナトリウムまたはカリウムである。水に溶解させると負に帯電した高級脂肪酸部分と正に帯電したアルカリ金属イオンに電離する。このとき生ずる負に帯電した高級脂肪酸部分がアニオン界面活性剤である。

工業的には高級脂肪酸を水酸化Naまたは水酸化Kで中和して製造する方法(中和法)と油脂を水酸化Naまたは水酸化Kでアルカリ加水分解して製造する方法(ケン化法)の2つがある。

中和法による石ケンの合成
高級脂肪酸1分子に水酸化ナトリウム1分子を反応させると中和反応によって石ケン1分子と水1分子が生成する。
ケン化法による石ケンの合成
油脂1分子に水酸化ナトリウム3分子を反応させるとアルカリ加水分解反応によって石ケン3分子とグリセリン1分子が生成する。

中和法で製造した石ケンは、ラウリン酸Na、ミリスチン酸K、パルミチン酸Na、ステアリン酸Kなど化学名と同等の表示名称が使われることが多い。

一方、ケン化法で製造した石ケンは使用する油脂によって生ずる高級脂肪酸の種類や比率はまちまちでステアリン酸、ラウリン酸など具体的な高級脂肪酸の名称を用いることが困難である。そのため具体的な脂肪酸の種類を特定せず元となった油脂の名称を使ったパーム脂肪酸Na、ヤシ脂肪酸Na、オリーブ脂肪酸K、ヤシ脂肪酸Kといった総称が使用される。

また、製造法によらずナトリウム塩の石ケンを総称して「石ケン素地」、カリウム塩の石ケンを総称して「カリ石ケン素地」という表示名称もあり、さらにそれら全てを総称する「カリ含有石ケン素地」という表示名称もある。「石ケン」という文字は安心感があるため、化学物質風の名称を嫌う消費者に向けた商品ではこのような総称がよく使われる。ただし、これら石ケン成分の総称は日本独自のもので、海外で多く使われている成分名(INCI名)には存在しないため、輸出の際の全成分リスト(INCIリスト)作成には注意が必要である。

石ケンの製造方法と表示名称

石ケンは、弱酸と強塩基の塩なので、その水溶液は弱アルカリ性を示す。石ケンの水溶液に酸を加えてpHを中性や酸性にすると石ケンの電離平衡がずれて高級脂肪酸が油塊として析出する。これでは界面活性剤ではなくなってしまうため、石ケンを配合する化粧品は弱アルカリ性で設計する必要がある。

5.3.2 N-アシルアミノ酸塩(アミノ酸系)

N-アシルアミノ酸塩
高級脂肪酸 + アミノ酸 + ナトリウムまたはカリウムが結合した構造

アシル基(R-CO-)がアミノ酸の窒素原子(N)に結合した構造とみなしてN-アシルアミノ酸塩という分類名称になっているが、視点を変えて「高級脂肪酸+アミノ酸+アルカリ金属」の構造とみた方が石ケンや他のアニオン界面活性剤の分子構造と比較して理解しやすい。実際、工業的には高級脂肪酸塩化物にアミノ酸を反応させる合成法がある。また、N-アシルアミノ酸塩よりは一般には「アミノ酸系界面活性剤」と呼ばれることが多い。

アミノ酸構造によってpKaが酸側に存在するため弱酸性でもアニオン性を維持できるものが多いのが石ケンと比べた時の最大の特長である。そのため石ケンでは不可能であった弱酸性の商品を設計することもN-アシルアミノ酸塩では可能である。人の皮膚表面のpHは弱酸性であるため、弱酸性の洗浄料は肌に優しいという印象を多くの消費者が抱いており、その設計に必要となるN-アシルアミノ酸塩も肌に優しい界面活性剤という印象を持たれている。

化粧品でよく使われるアミノ酸系界面活性剤として、ステアロイルグルタミン酸Na、パルミトイルサルコシンNa、ココイルグリシンKなどが有名である。

ステアロイルグルタミン酸Na
パルミトイルサルコシンNa
ココイルグリシンK
ココイルメチルタウリンNa

なお、タウリンは栄養学分野でアミノ酸に分類されているが、化学ではアミノ酸には分類されない(カルボキシ基とアミノ基を有する有機化合物をアミノ酸と定義しているのでカルボキシ基をもたないタウリンは化学分野でアミノ酸に分類されない)。N-アシルメチルタウリン塩はスルホン酸基を有したアニオン界面活性剤でありその性質からもスルホン酸塩に分類した方がわかりやすいが、消費者には化学的性質よりもアミノ酸という文字のもつ安心感が重要であるため栄養学での分類を準用してアミノ酸系界面活性剤としていることが多い。

5.3.3 硫酸塩、スルホン酸塩

硫酸基やスルホン酸基のようなイオウ原子を核にしたアニオン性官能基を持つアニオン界面活性剤。カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価カチオンと不溶性の金属錯体を形成しにくい(耐硬水性に優れる)のが最大の特徴で、その特性を活かして毛髪用洗浄料の洗浄剤としてよく使われている。

高級脂肪酸アルカリ金属塩(石ケン)は、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの多価カチオンと金属錯体を形成して不溶性の固形物(石けんカス)に変化する。カルシウムイオンやマグネシウムイオンはさほど珍しいものではなく、天然水にも水道水にも含まれていて一般に「ミネラル分」と呼ばれている。石けんを洗い流すために多量の水をかけると、水に含まれるミネラル分と石ケンが結合して石けんカスが生じる。

石ケンとカルシウムイオンによる金属錯体
(水に溶けない固形物で、石けんカスとも呼ばれる)

石けんで顔や体を洗った場合にも石けんカスは生じて一部は肌表面に付着するが、洗い上がり後に若干つっぱり感を生ずる程度でほとんど認識されることはない。しかし毛髪の場合には毛髪表面に細かく付着して極端に指通りが悪くなり洗い流しが困難になったり、指やクシが引っかかり毛髪を痛めたりする。そのため毛髪の洗浄に石ケンは適さない。

そこで毛髪の洗浄用にはミネラル分を多く含む水(硬水)を使っても石けんカスを生じにくい界面活性剤が必要となる。このような性質を持つアニオン界面活性剤として、ラウレス硫酸Na、オレフィン(C14-16)スルホン酸Na、ココイルメチルタウリンNaといった硫酸塩系・スルホン酸塩系の界面活性剤が開発された。これらは耐硬水性のアニオン界面活性剤として毛髪洗浄料を中心に用いられる。

ラウレス硫酸Na
オレフィン(C14-16)スルホン酸Na
ココイルメチルタウリンNa

5.3.4 アニオン界面活性剤の使い分け

国内では古くから使われ続けている安心感から洗浄剤に石ケンを好む消費者が多い。そのため顔用や体用の洗浄料では多くの商品で石ケンが使われている。また「アミノ酸」「弱酸性」という言葉の安心感からN-アシルアミノ酸塩もよく使われる。一方で、硫酸塩・スルホン酸塩は成分名がいかにも化学物質然としていることや、硫酸塩・スルホン酸塩を危険視することで相対的に石ケンやアミノ酸系界面活性剤の良さを強調しようとするマーケティング手法もあって、消費者ウケがあまり良くない。そのため硫酸塩・スルホン酸塩は耐硬水性が極めて重視される毛髪用洗浄料への使用に偏っている。

このように国内では顔・体は石ケンおよびアミノ酸系、毛髪は硫酸塩またはスルホン酸塩といった使い分けが多い。ところが、欧州など水の硬度が高い国や地域では、顔や体を洗浄する際にも石ケンでは石けんカスの発生が顕著に現れて洗浄料として機能しにくいため、顔用や体用でも硫酸塩またはスルホン酸塩などの耐硬水性アニオン界面活性剤を使った製品が多い。そのため欧州などでは顔、体、髪問わず石ケンを使用した洗浄料は少ない。国内でも、顔、体、髪問わず使える洗浄料として硫酸塩またはスルホン酸塩の界面活性剤を主体にした洗浄料が販売されている。

5.4 カチオン界面活性剤

親水基がプラスイオンになっている界面活性剤を総称してカチオン界面活性剤という。プラスイオンになる構造として4級アンモニウム塩構造を有する化合物がよく使われる。

アニオン(マイナスイオン)界面活性剤の代表例である石ケンに対して、カチオン(プラスイオン)界面活性剤はマイナスとプラスが逆という意味で「逆性石ケン」と呼ばれることもある。

水に溶けるときに右のように電離してプラスイオンを生ずる

プラスイオンを有することから静電気を中和する「帯電防止剤」としての使われ方が多い。また、カチオン界面活性剤の中には殺菌力に優れる成分もあり、そういった成分は「殺菌剤」として薬用石鹸や手指消毒剤に使用される。

5.4.1 帯電防止剤

プラスイオンが静電気を電気的に中和するので、カチオン界面活性剤は静電気を防ぐ「帯電防止剤」としてヘアケア製品で使われることが多い。ステアルトリモニウムクロリドやベヘントリモニウムクロリドといった塩化物が多いが、ステアルトリモニウムブロミドといった臭化物もある。

ステアルトリモニウムクロリド
ベヘントリモニウムクロリド

ヘアトリートメントの設計では、乳化に「界面活性剤」、帯電防止作用に「カチオン化合物」、髪に塗布しやすい適度な硬さを出すために「増粘系」の3つが必要である。カチオン界面活性剤はある種の高級アルコールと組み合わせるとゲル構造形成による増粘作用を発揮することが知られている。そのため1つの成分で「乳化剤」「帯電防止剤」「増粘剤」の3つの働きを一つの成分で担える(増粘作用は高級アルコールとの組み合わせで発揮する)カチオン界面活性剤は、ヘアトリートメントの設計をシンプルにまとめるのに非常に有効であり、カチオン界面活性剤と高級アルコールの組合せは古くからヘアトリートメント設計の定番中の定番である。

ノンパラベン、ノンシリコーン、ノンカチオンに代表されるように、定番の設計手法をあえて外すことで、他にない特別な化粧品にみせる差別化手法がある。パラベンが、シリコーンが、カチオンが肌に合わない人にとってそれぞれの化粧品はまさに特別な化粧品として一定の需要がある。しかしそのような特別な設計を必要としていない人にまで対象を拡大しようとして、定番の設計手法があたかも多くの人にとって悪いことであるとする情報も同時に出回っている。若い技術者がこのようなマーケティング情報に踊らされて基礎技術や定番設計を習得する機会を自ら不要とするのは非常に残念である。定番設計はなぜ定番なのか、先人が積み上げてきた安心安全安定思想に基づく技術蓄積は大切にしてほしい。

5.4.2 殺菌剤

ベンザルコニウムクロリドなど一部のカチオン界面活性剤には高い殺菌力を有するものがあり手指消毒製品の有効成分として使われている。

ベンザルコニウムクロリド

4級アンモニウム塩に殺菌作用があることはかなり古くから知られており、その中でもベンザルコニウムクロリド(医薬部外品では「塩化ベンザルコニウム」)は安全性と殺菌性のバランスに優れた成分として長年使われている。

5.5 両性界面活性剤

親水性基の電荷がpHや他のイオン性化合物の存在によって変化する界面活性剤を総称して両性界面活性剤という。アルカリ性側(水素イオン濃度が低い)ではアニオン界面活性剤として、酸性側(水素イオン濃度が高い)ではカチオン界面活性剤としての性質を示す。

幅広いpHでイオン性界面活性剤としての性質を有し、耐硬水性にも優れることからシャンプーや皮膚洗浄料の洗浄剤として、また乳化助剤として、さまざまな製品で幅広く使用されている。コカミドプロピルベタイン、ココアンホ酢酸Naが有名である。

コカミドプロピルベタイン
ココアンホ酢酸Na

5.6 非イオン界面活性剤

親水基がイオン化しない界面活性剤を非イオン界面活性剤またはノニオン界面活性剤という。

イオン性をもたないため、pHや他のイオン性化合物による影響をほとんど受けることなく、さまざまな条件で安定した界面活性作用を発揮することができる。そのためさまざまな化合物の存在下で長期間に渡って安定に乳化状態を維持しなければならない乳液やクリームなどの乳化物を設計する際の乳化剤として用いられることが多い。また、非イオン界面活性剤は泡立ちの低いものが多いのでクレンジングジェルや食洗機用洗剤など泡立ってしまうとかえって使いづらくなる洗浄料での洗浄剤として使われることもある。

疎水基の構造には高級脂肪酸がよく使われ、親水基の構造にはグリセリン、糖類、PEGがよく使われる。疎水基にステアリン酸、親水基にグリセリンを用いて両者をエステル化反応で結合させたステアリン酸グリセリルはその典型例である。

非イオン界面活性剤の一般的な構造
ステアリン酸グリセリル
(ステアリン酸とグリセリンをエステル結合させたもの)

非イオン界面活性剤の表示名称は、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ステアリン酸PEG-40、PEG-60水添ヒマシ油といった分子構造を想像しやすい名前が多いが、ポリソルベート60のように表示名称では構造が想像できない成分も一部にはある。

イオン性界面活性剤は強い電荷を有するため親水基と水分子との結合力が強くその結果非常に水に溶けやすいのが特徴である。一方、非イオン界面活性剤の親水基はイオン化していないためそれほど強い水和性がない。そのため、疎水基の構造を少し大きくするだけで親油性の強い界面活性剤を作ることができる。親水基と疎水基の構造のバランスによって親水性の界面活性剤から親油性の界面活性剤まで豊富なバリエーションがそろっているのも非イオン界面活性剤の特徴である。

さまざまな非イオン界面活性剤
(他のイオン性化合物やpHの影響を受けにくい、親水性から親油性までバリエーションが豊富)

非イオン界面活性剤を使った乳化物の調製に関する研究は古くから行われており、非イオン界面活性剤の性質(親水性/親油性)と、乳化物の型(水中油型/油中水型)との関係を経験則としてまとめたHLB法や有機概念図法は乳化物設計における界面活性剤選択の重要な指針となっている。

4 油性成分 / 化粧品の成分

本稿では、化粧品設計の基本となる成分のうち、水に溶解しない成分を油性成分と分類している。化粧品において油性成分は、皮膚や毛髪の保護、つや、化粧品の形状維持、粉体の分散制御などさまざまな目的で用いられる。

化粧品で使用される油性成分はその分子構造によって「炭化水素」「高級脂肪酸」「高級アルコール」「ロウ・ワックス」「油脂」「エステル油」「シリコーン」の7つに分類されている(これ以外に「フッ素系」など特殊なものがいくつかあるが種類も使用例も少ない)。それぞれが分子構造に起因する特徴を有しており、化粧品の設計では目的に応じて使い分けや組み合わせが行われる。

油性成分の分類例

4.1 炭化水素

炭素原子と水素原子のみで構成される分子構造の油性成分が「炭化水素」である。

極性を持たないため他の油と比較して水分子との相互作用が極めて低く、皮膚からの水分蒸散抑制作用に優れる。また、乳化しやすいといった特徴がある。化粧品では炭化水素の中でも酸化安定性に優れた飽和炭化水素が用いられることがほとんどである。

主な成分としてはミネラルオイル、ワセリン、マイクロクリスタリンワックスといった石油精製物や、サメ肝油やオリーブ果実油から得られるスクワレンを水素添加して飽和化したスクワラン、イソブテンの重合体のポリイソブテンなどがある。

スクワラン

分子量や分子構造によって固体、半固体(ペースト)、液体、気体などさまざまな状態の成分がある。固体の炭化水素はロウ・ワックスと同様に化粧品の硬さ調整や固形化粧品の基材などとして、ペーストや液体の炭化水素は肌からの水分蒸散抑制や化粧品の感触調整などとして、気体の炭化水素は圧縮して液体にしてエアゾールの噴射剤としてなど状態の特性に応じてさまざまな用途で広く使われている油性成分である。

マイクロクリスタリンワックス、合成ワックスは、名称にワックスの文字を含んでいることや、常温で固体で加熱すると溶解するいわゆるワックスと類似の性質であること、実際にワックスと同様の使い方をすることが多いことから間違えやすいが、分子構造は炭素原子と水素原子だけでできているので「炭化水素」に分類される油性成分である。

ミネラルオイル、ワセリンなどの石油精製物は極めて安全性の高い成分でありほとんどの人に軽微な問題すら起こさない。その特徴を活かして塗り薬の基剤やパッチテストの溶媒など極めて高い安全性が求められる場面で使用されている。しかし、消費者の中には石油精製物は安全ではないという印象をもつ人がいる。特に天然や自然という文字に信頼感や安心感を抱く消費者にその傾向があるのは不思議な現象である。石油は人間の手では作り出すことができない天然地下資源、まさに大地の恵みである。大地深くから湧き出す天然水には安心感をもつのに、大地深くから湧き出す天然油(石油)には拒否感をもつのだからわかりにくい。化粧品は理屈だけでは説明できない典型例である。

4.2 高級脂肪酸

高級脂肪酸(炭化水素構造の末端にカルボキシ基)

炭素数がおおむね12以上の炭化水素構造の末端にカルボキシ基(-COOH)が1つある分子構造の油性成分が「高級脂肪酸」である。

主な成分としてラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸といった化学名と同じ表示名称がある。

ラウリン酸
ミリスチン酸
ステアリン酸

さらに、ヤシ油をアルカリ加水分解して得られる高級脂肪酸の混合物「ヤシ脂肪酸」、パーム核油をアルカリ加水分解して得られる高級脂肪酸の混合物「パーム核脂肪酸」、同じく大豆油をアルカリ加水分解して得られる「ダイズ油脂肪酸」といった油脂の名前を冠した表示名称もある。油脂を分解して得られる高級脂肪酸は多くの種類が混在していてはっきりしないため、もととなった油脂の名前を使った総称が表示名称として用意されている。

油脂を分解して製造する高級脂肪酸の混合物は、含まれている脂肪酸の種類や比率を正確には特定できないため元となった油脂の名前を冠した名称で総称する

高級脂肪酸は、水酸化Naや水酸化Kなどのアルカリで中和すると高級脂肪酸金属塩、いわゆる石ケンを生ずるのが特徴である。

高級脂肪酸を単独で化粧品に配合することはあまりなく、上述のように強アルカリで中和して石ケンを製造する原料としてや、粉体表面に結合させて粉体を疎水化する表面処理剤として使用されることが多い。

ほとんどの高級脂肪酸は常温で固体だが、オレイン酸のような不飽和脂肪酸やイソステアリン酸のような分岐脂肪酸の中には常温で液体のものも存在する。

4.3 高級アルコール

高級アルコール(炭化水素の末端に水酸基)

炭素数がおおむね12以上の炭化水素構造の末端に水酸基(-OH)が1つある分子構造の油性成分が「高級アルコール」である。

主な成分としてベヘニルアルコール、セテアリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、コレステロール、ホホバアルコールがある。

ベヘニルアルコール
ステアリルアルコール
コレステロール

炭素数が多いので油溶性だが末端の水酸基が親水性をもつためごくわずかな両親媒性も有している。このわずかな両親媒性によって高級アルコールはO/W乳化物において非イオン界面活性剤とともに油滴の外部にαゲルとよばれるラメラ液晶構造を形成し乳化物を安定化させることが知られている。外相でのラメラ構造形成とそれによる系の粘度上昇による乳化安定化は乳化物設計に重要で古典的クリーム処方では必ずと言っていいほど高級アルコールが使われる。

また特定のカチオン界面活性剤と高級アルコールの組み合わせでも同様に安定なゲルを形成することが知られており、ヘアコンディショナーの設計では使いやすく安定した硬さをだすために油性成分の大部分を高級アルコールが占める設計が多い。

コレステロールはリポソーム形成において脂質二重膜の安定性向上にも使われている。

ほとんどの高級アルコールは常温で固体だが、種類は少ないもののオレイルアルコールのような不飽和アルコールやイソステアリルアルコールのような分岐アルコールには常温で液体のものも存在する。

4.4 ロウ・ワックス

ロウ・ワックスの分子構造(高級脂肪酸と高級アルコールがエステル結合した構造の化合物が主成分である天然油)

動植物から得られる天然油のうち、高級脂肪酸と高級アルコールのモノエステルが主成分となっている油性成分が「ロウ・ワックス」である。ロウと呼ぶこともワックスと呼ぶこともある。

主な成分としてキャンデリラロウ、カルナウバロウ、ミツロウ、ホホバ種子油、ラノリンがある。

多くは常温において固体で加熱すると溶解する性質を利用して、口紅などスティック状化粧品の基剤として汎用されている。例外的に液状のロウとしてホホバ種子油が、ペースト状のロウとしてラノリンが知られている。ロウ・ワックスはアクネ菌による資化性が低い分子構造であるため、これら非固体ロウは油脂に代わって抗ニキビ化粧品においてニキビを誘発しにくい油性成分として使われることもある。

4.5 油脂

油脂(高級脂肪酸3分子とグリセリン1分子がエステル結合した構造の化合物が主成分である天然油)

動植物から得られる天然油のうち、高級脂肪酸とグリセリンのトリエステルが主成分となっている油性成分が「油脂」である。

主な成分としてマカデミア種子油、オリーブ果実油、アルガニアスピノサ核油、ヒマシ油、シア脂などがある。動植物の名が表示名称にそのまま出てくるので消費者にわかりやすい安心感を与えることもできる。

ヒトの皮脂の半分近くはトリグリセリド(油脂)であるため、油脂はヒトの肌と親和性が高い油とされ、また皮膚柔軟作用(エモリエント効果)のような皮脂と同等の働きをするとも考えられており、肌なじみがよくスキンケア効果の高い油性成分として多くの化粧品に使われる。

脂質平均値(重量%)範囲(重量%)
トリグリセリド41.019.5〜49.4
ジグリセリド2.22.3〜4.3
遊離脂肪酸16.47.9〜39.0
スクワレン12.010.1〜13.9
ワックスエステル25.022.6〜29.5
コレステロール1.41.2〜2.3
コレステロールエステル2.11.5〜2.6
皮脂(皮表脂質)の組成
[D.T.Downing, J.S.Strauss, P.E.Pochi, J.Invest.Dermatol. 53, 322(1969)]

動植物の名が表示名称にそのまま出てくるので消費者にわかりやすい安心感を与えることができるのも油脂の特徴である。

4.6 エステル油

エステル化反応を利用して合成した油性成分の総称が「エステル油」である。単に「エステル」と呼ぶこともある。

安定性、感触、融点、価格など油性成分に対するさまざまな要望に応えるために数多くのエステル油が合成され実用化されている。ロウ・ワックスと同じ分子構造を持った高級脂肪酸と高級アルコールのモノエステル(合成ロウ)、油脂と同じ分子構造を持った高級脂肪酸とグリセリンのトリエステル(合成油脂)、それ以外の分子構造のエステル油の3つに細分化される。

ロウ・ワックスおよび油脂は天然油であるがゆえに分子内の脂肪酸組成が動植物の産地や季節によってブレたり、遊離脂肪酸の残存、その他不純物の残留など品質に不安定要素が多い。また、豊不作によって原料価格が急に上下するといった価格にも不安定要素がある。合成することで品質的にも価格的にも安定した油性成分を入手できるのがエステル油(特に合成ロウや合成油脂)の大きな利点である。また、合成によって天然油にはない特性や高い機能性をもった油性成分をデザインできるのもエステル油の特徴である。

一方でエステル油の表示名称はいかにも化学物質然としているので消費者への訴求力がない。そのため消費者にわかりやすく安心感のある油脂やロウなどの天然油を配合しつつ、製品の品質や価格安定性をエステル油で担保する組み合わせ設計がよく行われる。

エステル油の中で合成ロウに該当する成分として有名なのは、2-エチルヘキサン酸とセチルアルコールのモノエステル「エチルヘキサン酸セチル」である。液状なのでホホバ種子油と同様の目的で使われることが多い。

エチルヘキサン酸セチル
(エチルヘキサン酸とセチルアルコールのモノエステル)

エステル油の中で合成油脂に該当する成分として有名なのは2-エチルヘキサン酸とグリセリンのトリエステル「トリエチルヘキサノイン」。トリエチルヘキサノインは油脂と同様の目的でスキンケア製品で多用される。

トリエチルヘキサノイン
(エチルヘキサン酸とグリセリンのトリエステル)

その他の構造を持った油性成分として有名なのは2-エチルヘキサン酸とペンタエリスリトールのテトラエステルである「テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル」。この成分は顔料分散性に優れるため、ヒマシ油に代わってメイクアップ製品で多用される。

テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル

4.7 シリコーン

ケイ素と酸素の繰り返し構造がシリコーンの基本

前述までの6種類の油性成分はどれも炭化水素構造を主とした成分であるが、シリコーンはこれらと全く異なるケイ素原子と酸素原子の繰り返し構造を主鎖とする非水溶性化合物である。水に対する溶解性がない一方で、炭化水素骨格を主とする他の油性成分との相溶性もあまり高くないものが多いため、シリコーンを油性成分に含めず別枠に分類することもある。あまり細かく分類しだすとキリがないので、本稿では水に溶けないという観点で油性成分にまとめている。

高い安定性と撥水性および他の油性成分とは一線を画す高い滑り性を基本特徴としている。揮発性を有する低分子環状シリコーン、液状の低分子直鎖シリコーン、ペースト状の高分子シリコーン、固形のシリコーン樹脂までさまざまな状態のシリコーンが合成されており、必要に応じて使われている。

ジメチコン
(ケイ素と酸素の繰り返しの長さはさまざま)
シクロペンタシロキサン
(ケイ素と酸素の繰り返しが5回で一周)

また、側鎖にアルキル基やフェニル基、アミノ基などを導入することで乳化特性、皮膜特性、毛髪付着性などさまざまな特徴をもたせたシリコーンも開発されている。

主なシリコーンとして、揮発性を有する低分子環状シリコーンの「シクロペンタシロキサン」、側鎖メチル基の「ジメチコン」、側鎖アミノ基で毛髪付着性を高めた「アモジメチコン」「アミノプロピルジメチコン」などがある。