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3 水性成分 / 化粧品の成分

本稿では、化粧品設計の基本となる成分のうち、水そのものおよび水によく溶ける成分を水性成分と分類する。具体的には「水」「エタノール」「保湿剤」がこれに該当する。書籍によっては水とエタノールを水性成分と分類し、保湿剤はこれとは別に分類とする場合や水と保湿剤を水性成分と分類しエタノールは別に分類する場合もある。

3.1 水

うるおいを与えるというスキンケアの基本機能であるうるおいそのものとしての役割の他に、固形成分を溶かして肌に塗布しやすくする溶剤としての役割も担っている。一般的に「精製水」が使用されるが、温泉水や海水のような天然水、ローズ水やラベンダー花水のような芳香水(蒸留によって得られる芳香成分を含んだ水)なども一部で使われる。

3.2 エタノール

C2H5OHの分子構造を持つ化合物。化学名ではエチルアルコールとも呼ばれる。いわゆるお酒に含まれるアルコール分である。微生物に糖蜜などを発酵させて作られる発酵エタノールと、エチレンなどから化学合成によって作られる合成エタノールがあるが、化粧品の製造には一般的に純度がほぼ100%のエタノールが使われるため、発酵法でも合成法でも化学物質としては同じエタノールで違いはない。そのため成分表示名称では両者を区別せず「エタノール」としている。実際の化粧品製造では、品質管理しやすい合成エタノールを使う場合もあれば、「合成」という文字を嫌う消費者への配慮から発酵エタノールを用いる場合もある。

エタノール

エタノールは、安全性、安定性に定評がある上に1つの成分で「溶媒」「清涼」「浸透促進」「防腐殺菌」などさまざまな役割を果たすことができるため、化粧品設計において欠かすことのできない便利な成分である。

一方で、エタノールと接触すると赤く腫れたりかゆくなるなどの症状が出るアルコール過敏症の人もいるので、エタノールをあえて使用しない化粧品ブランドにも一定の需要がある。なお「アルコール」はエタノール、プロパノール、ブタノールなど分子構造中に水酸基(-OH)を含む化学物質の総称だが、食品分野ではエタノールしか使われないため「アルコール」と「エタノール」は同義語として扱われている。そのため食品分野ではエタノールを使用しないことを「ノンアルコール」や「アルコールフリー」などと表現する。しかし、化粧品分野ではエタノール以外にイソプロピルアルコール、ステアリルアルコール、コレステロールなどさまざまなアルコールが使われるため誤解が生じないよう「エタノール不使用」「エタノールフリー」といった表現をすることが多い。また、消費者の側にはエタノールが肌に合わないことをアルコールが肌に合わないと勘違いして、ステアリルアルコールなどの油が配合されている化粧品まで敬遠している人もいる。エタノールが肌に合わないからといってアルコール類全てが肌に合わないとは限らない。

3.3 保湿剤

水分子と結合することで水の蒸発を抑制し、皮膚表面の水分を保持する作用(保湿作用)をもった成分。皮膚表面の水分量を保つことは化粧品、とくにスキンケア化粧品にとって重要な作用であり、保湿剤は化粧品の必須成分と言える。保湿剤と呼ばれるものは主に「分子中に水酸基を有する化合物」「分子中にエーテル酸素を有する化合物」「アミノ酸類」「セラミド類」があるが、本稿では前2つを保湿剤とし、後2つは美容成分として分類する。

3.3.1 水酸基を有する化合物

水分子は、酸素原子の電気陰性度が高いために電荷に偏りがあり酸素原子がわずかに負に、水素原子がわずかに正に分極している。また、アルコールや糖類の分子構造に見られる水酸基も同様に分極している。そのため、水分子の水素原子と水酸基の酸素原子、および水分子の酸素原子と水酸基の水素原子は「水素結合」と呼ばれる弱い結合を形成する。

水分子は水素原子が正に、酸素原子が負に分極している
水酸基(-OH)も水素原子が正に、酸素原子が負に分極している
イソプロパノールと水分子との水素結合のイメージ(水酸基と水分子が水素結合する)

水分子が砂糖のような大きな分子と水素結合すると重りがぶら下がったのような状態となるため、自由な状態の水分子(自由水)と比べて蒸散しにくくなる。砂糖水を放っておくと水の蒸発がある程度のところで止まり、いつまでもベタベタとした状態が続く。これは砂糖と水素結合した水分子が蒸発できずに残り続けるからである。このような方法で水分を保持する働きを化粧品では「保湿作用」といい、そのような働きをする成分を「保湿剤」と分類している。砂糖のように分子構造の中に水酸基(-OH)を有する水溶性化合物の多くが保湿剤に分類される。

3.3.2 エーテル結合を有する化合物

ポリエチレングリコール(PEG)に見られるエーテル結合(-O-)の酸素原子もわずかに分極することから、水分子の水素原子と水素結合を形成する。そのため本稿ではPEGを保湿剤に分類しているが、PEGには増粘効果もあるので増粘剤に分類されることもある。

PEGと水分子の水素結合のイメージ(エーテル酸素が水分子と水素結合する)

3.3.3 アミノ酸

アミノ酸はカルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)のそれぞれが分極しているため強い水素結合性を有しており、保湿剤に分類されることも多い。しかしカルボキシ基はイオン性が強いため多量に配合すると pH を大きく変化させてしまったり他の成分と反応して化粧品の安定性や品質を低下させる原因となりやすいので多量に配合されるものではない。そのこともあり、天然保湿因子(NMF)の主要構成成分であることに着目して肌状態全般の改善を期待して少量配合されるのが化粧品におけるアミノ酸の一般的な使い方なので、本稿ではアミノ酸を保湿剤ではなく有効成分・美容成分に分類して解説する。

アラニンと水分子の水素結合のイメージ(アミノ基とカルボキシ基が水分子と水素結合する)

3.3.4 細胞間脂質

近年の研究によって、角質層の油分(細胞間脂質)も肌からの水分蒸散を抑制することで皮膚の保湿に役立っていることがわかってきた。そのため、細胞間脂質を構成しているセラミドや油脂などの油性成分も保湿剤に分類することがある。この場合、保湿剤を水性成分の中に含めることができないので独立の分類とすることになる。

本稿では古典的な分類に準じて水素結合に基づく水分保持機能を有する水性の保湿剤を「保湿剤」とし、細胞間脂質を構成するセラミドなど油性の保湿剤は「有効成分・美容成分」に分類して解説する。

保湿剤の分類方法

3.4 保湿剤が持ついくつかの作用

保湿剤の重要な働きは文字通り「保湿」であるが、それ以外にもいくつかの作用を持っている。ひとつの化粧品で複数の保湿剤が使われることがあるのは、それぞれの作用に合った保湿剤が選択され組み合わされるためである。ここでは保湿剤が持つ作用のうち「保湿作用」「静菌作用」「感触調整作用」について説明する。

3.4.1 保湿作用

保湿作用が水酸基と水分子との水素結合であるとの前提に立てば、水素結合部位(水酸基、エーテル酸素など)を効率的に含む化合物が高性能の保湿作用を有すると考えることができる。議論を簡略化するためにエーテル酸素が主たる水素結合部位になっているPEGを除外し、各種水性保湿剤の分子量に占める水酸基の割合に着目して整理した結果を次の表に示す。

ソルビトール56.0%
キシリトール55.9%
エリスリトール55.7%
グリセリン55.4%
グルコース(ブドウ糖)47.2%
マルチトール(還元麦芽糖)44.4%
ジグリセリン 40.9%
スクロース(ショ糖)39.7%
BG37.8%
DPG25.3%
ヒアルロン酸Na24.3%
分子量に占める水酸基の比率

ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、グルコースといった糖類が上位を占めているのがわかる。この数値だけで言えば糖類、特にソルビトール、キシリトールが保湿作用に最も優れた成分になるが、糖類は配合量が増えるときしみやベタつきが非常に強く、好ましくない感触になってしまうため化粧品にはそれほど多量には配合できない。いくら高性能でも少量しか配合できないのでは最終商品の性能向上には寄与できない。

水酸基を効率的に有する分子構造であり、多量に配合しても使用感に悪影響を及ぼさない成分として注目されるのがグリセリンである。グリセリンは数十%配合しても不快な感触が出ないことが知られており、さらに安全性、安定性、臭い、価格といった多くの点でも優れた特性を有している。保湿作用、安全性、安定性、感触、価格など総合的に評価するとグリセリンは最も優れた保湿作用を有した成分であるといえる。

グリセリン

このため高い保湿作用を必要とする化粧品の設計には必ずと言っていいほどグリセリンが使用される。国内で販売される化粧水のおよそ9割にグリセリンが配合されている。

また、グリセリンの二量体であるジグリセリンも同様に高配合でも不快な感触が出にくいことから保湿作用に優れた保湿剤として使われている。

ジグリセリン

3.4.2 静菌作用

保湿剤は保湿以外にも化粧品においてさまざまな作用を発揮する。静菌作用もそのひとつである。

多くの微生物は水分の多いところで増殖し、少ないところでは増殖しにくい。湿度の高い浴室よりも乾燥機で湿気を取り除いた浴室にはカビは生えにくいし、水気を多く含む生魚よりも火を通して乾燥させた焼き魚は格段に日持ちが良くなる。このように乾燥によってかびにくくする、腐りにくくすることはよく知られている。その一方で、水分を20%ほど含むにも関わらずハチミツが常温に放置してもかびたり腐ったりしないことも知られている。

別の化合物と水素結合した状態の水分子を「結合水」、自由な状態の水分子を「自由水」と呼ぶ。多くの微生物にとって増殖に利用できるのは「自由水」であり、同じ水でも「結合水」は増殖に利用できない。水に糖分を加えると水の一部は糖分と水素結合して結合水になり、結果として自由水は減る。そのため糖分を約70%含んでいるハチミツは水を含んでいるにも関わらずそのほとんどが結合水となっており、微生物は増殖できない。微生物も生き物であるから寿命がある。増殖できなければ時間と共に微生物は寿命を迎え自然に減少していく。微生物を直接攻撃して死滅させる「殺菌」に対して、微生物の増殖を抑えることで結果的に微生物の数を減らすこの方法は「静菌」(書籍によっては「制菌」)と呼ばれる。自由水を減らすことで食品の保存性を高める静菌は砂糖漬けやシロップ漬けといった保存食としても活用されている。

化粧品でも同様で、水分子と水素結合を形成する保湿剤を多量に加えて自由水を減少させれば比較的水を多く含む化粧品でも少ない防腐剤で必要な保存効力を出すことができる。ただし食品と違い、糖類はきしみやベタつきが非常に強く、好ましくない感触になってしまうため化粧品では自由水を十分減らすほどの量を配合できない。そこで必要な保存効力を発揮する量を配合しても不快な感触にならない保湿剤が求められる。静菌作用と安全性、安定性、感触、価格などのバランスが良好な成分として有名なのがBG、DPG、ペンチレングリコールである。

BG
DPG
プロパンジオール

BGやDPGを化粧品中に30%程度配合するとかなり保存効力を高めることが可能で、条件が良ければ防腐剤を使わなくても品質維持が可能になる。とはいえ保存効力向上という化粧品の本質ではない目的のために30%もの部分を使ってしまうのは、他に必要なさまざまな成分を配合する余地を圧迫することになる。そこで、BG、DPGの配合量は10%程度にとどめて、少量の防腐剤、微生物の混入しにくい容器、使用期限を設けるなど、いくつかの対策と組み合わせて品質を確保する設計が多い。

また、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、カプリルグリコール、エチルヘキシルグリセリンといった、より少量で高い静菌効果が得られる成分の活用も増えてきている。

ペンチレングリコール
1,2-ヘキサンジオール
カプリリルグリコール

ただしこれらの成分は炭化水素構造が大きいため水溶性が低く、界面活性作用による泡立ちや乳化安定性低下、溶解度を超えることによる濁りなど配合にあたって技術的ハードルが高いためBG、DPGほど普及はしていない。

日本では防腐剤に拒否感が強い消費者が多いため、最小限の防腐剤もしくは防腐剤を使わずに必要な保存効力をだせるBGやDPGを活用した化粧品設計が多い。日本的設計を強く意識している中国や韓国の化粧品でもBGやDPGを配合したものが多く出ている。一方で、防腐は防腐剤に任せたほうがいいという考え方が根強い欧米ではBGやDPGを活用した防腐設計の化粧品はさほど多くはない。

3.4.3 感触調整作用

治療を目的とする医薬品と違い、化粧品はいくら数値性能が良くても外観や使用感が不快では使い続ける気にはならない。数値性能に加えて「肌に良いことをしている」「肌がケアされている」という感覚を作り出すことも化粧品設計には必要な要素となる。栄養素という数値性能がいくら良くても不味い料理は食べたいと思わないのと同じである。化粧品や食品は嗜好品であるため「良薬口に苦し」は成り立たない。また「病は気から」のことわざにもある通り、良好な感触の化粧品を使うことで心持ちが良くなることが実際に肌状態に良い影響を与える心理的効果も知られている。医薬品においてはこのような思い込みによる効果をプラセボ効果と呼び、プラセボ効果による治癒と比べ、統計的に十分高い治癒率が出たかどうかでその有効性が評価される。しかし一般的に化粧品では心理的効果も化粧品の効果として広く捉える。気持ちよく使ってもらえる使い心地を設計することも化粧品設計では重要である。

乳液やクリームなど乳化物では、水性成分、油性成分、界面活性剤などさまざまな分類の成分を使用するため感触調整に使える成分の選択肢も広いが、基本的に水に溶ける成分だけで設計しなければならない化粧水においては使用感調整において保湿剤が果たす役割は非常に大きい。どの保湿剤を何%組み合わせるかで化粧水の使用感は大きく左右される。

この目的には少量配合するだけで大きく使用感を変化させることができる保湿剤が有用である。主にヒアルロン酸Na、水溶性コラーゲン、ポリエチレングリコール(PEG-6、PEG-32、PEG-75など)、糖類(ソルビトール、キシリトール、マルチトールなど)が使われる。

ヒアルロン酸Naの単位構造
(グルクロン酸NaとN-アセチルグルコサミンの二糖体)
ヒアルロン酸Na
グルクロン酸NaとN-アセチルグルコサミンの繰り返し構造で、長さはさまざま。短いものでも実際はこの図では入りきらないほど長い
ポリエチレングリコール(PEG)
エチレングリコールの繰り返し構造で長いものから短いものまでさまざまある
ソルビトール
キシリトール
エリスリトール
グルコース
マルチトール

筆者らの研究によると、糖類はおおむね数%、分子量100万前後の低分子量タイプのヒアルロン酸Naは0.2%、分子量200万前後の高分子量タイプのヒアルロン酸Naであればわずか0.05%の配合量で化粧品の感触に変化を与えることがわかっている。わずかな配合量で感触を大きく変化させられるこれらの成分は、他にさまざまな目的の成分を配合する余地を残すことができるため化粧品の感触設計で重用される。

高分子量タイプのヒアルロン酸Naは、塗布中のとろみや厚みとなじみ際のひっかかり感そして塗布後のさらっとした感触が特徴で、糖類はなじみ際の強いひっかかり感と塗布後のしっとりとした感触が特徴、PEGは塗布中のとろみと塗布後のハリ感が特徴、といったように成分によって感触の特徴が異なっている。

3.5 保湿剤の選択

前項の通り保湿剤には「保湿作用」「静菌作用」「感触調整作用」などいくつかの働きがあり、化粧品設計では目的に応じて必要な成分が選択され組み合わされる。

  • 保湿作用に優れた保湿剤:グリセリン、ジグリセリンなど
  • 静菌作用に優れた保湿剤:BG、DPGなど
  • 感触調整作用に優れた保湿剤:糖類、ヒアルロン酸Na、PEGなど

ひとつの化粧品に複数の保湿剤が配合されることが多いのはこのためである。一般的に保湿作用に優れた保湿剤としてグリセリンやジグリセリン、静菌作用に優れた保湿剤としてBGやDPG、感触調整作用に優れた保湿剤としてヒアルロン酸Naやソルビトール、PEGといった成分が選択されることが多い。

2 化粧品成分の分類 / 化粧品の成分

化粧品の中には、マスカラ、ネイル化粧料、毛髪着色料のようなかなり独特な設計が行われるアイテムもあるが、多くのアイテムは「水性成分」「油性成分」「界面活性剤」「着色剤」という化粧品設計の基本となる成分に「品質向上剤・品質保持剤」「有効成分・美容成分」という添加剤を加えた6つに分類される成分の組み合わせで説明できる。本稿ではこの分類に沿って化粧品の成分を説明する。

化粧品設計の概念図

ただし、化粧品成分の自由化以降、新素材や複合素材の開発が大きく進展し、従来の分類には当てはまらない成分や複数の分類にまたがる成分が次々と登場している。そのため同じ成分でも書籍によって異なる分類になっていたり、分類の項目そのものが異なっていることも多くなってきたことは知っておく必要がある。

2.1 水性成分、界面活性剤、油性成分、着色剤

「水性成分」「界面活性剤」「油性成分」の3つの組み合わせで多くの化粧品、特にスキンケア化粧品の基本設計を説明できるため、この3種類をまとめて「基剤」と呼ぶことも多い。

たとえば水性成分を使えば化粧水を設計できる。界面活性剤を使えば固形石鹸や洗顔パウダーを設計でき、界面活性剤を水性成分で適度に希釈すると洗顔フォームやシャンプーを設計できる。油性成分を使えばフェイスオイルやヘアオイルを設計できる。油性成分に界面活性剤を加えればクレンジングオイルを設計できる。水性成分と油性成分を界面活性剤で安定した混合状態にすることで乳液、クリーム、ヘアコンディショナーといったいわゆる乳化物を設計できる。このようにスキンケア化粧品の基本設計の多くが水性成分、界面活性剤、油性成分の組み合わせで説明できる。

これに、肌に色を付ける「着色剤」を加えると主だったメイクアップ化粧品の設計も説明できる。

着色剤をそのまま使えば粉末状のルースファンデーションを設計できる。着色剤に油性成分を加えると撥水性と付着性に優れた油性ファンデーションや口紅を設計できる。着色剤を水性成分と油性成分と界面活性剤からなる油中水型乳化物に混ぜれば、のびの良い適度な塗りやすさと適度な化粧持ち、スキンケア効果のバランスに優れた液状ファンデーションやクリームファンデーションが設計できる。

主だった化粧品アイテムの基本設計は以上のように4つの分類に属する成分の組み合わせでおおむね説明できる。水性成分、界面活性剤、油性成分、着色剤は大分類であり、それぞれの分類の中は性質や役割によってさらに中分類、小分類と細分化されている。たとえば、界面活性剤で固形石鹸を設計できるが、界面活性剤ならなんでもよいわけではなく固形石鹸の設計に適した界面活性剤がある。個々の大分類の中がさらにどのような性質に着目してどのように分類がされているといった各論は以降の各章で説明していく。

2.2 品質向上剤・品質保持剤

前項のような成分の組み合わせが、各アイテムの基本設計だが、これだけでは手作り化粧品レベルである。流通される商品としての化粧品は、工場で製造され、工場の倉庫に入り、店舗へ出荷され、店舗の倉庫に入り、店頭に陳列され、消費者が購入し、使い始めて、使い終わるまで、非常に長い時間がかかる。気に入った色の化粧品が使っているうちに変色したり、香りが気に入って買った化粧品が使っているうちに変臭したり、気に入った化粧品がカビてしまったりしてはいけない。消費者が使い始めてから使い終わるまでしっかりと品質を維持するために「増粘剤」「pH調整剤」「防腐剤」「酸化防止剤」「キレート剤」「紫外線防止剤」などの品質向上剤や品質保持剤と呼ばれる成分を必要に応じて選択し適切な量を配合することで、はじめて流通に耐えうる「商品」になる。

化粧品の品質は一般に「必要品質」と「魅力品質」の2つに分類されている。このうち必要品質は「必要」という文字からわかるとおり、全ての化粧品が備えていなければならないあたりまえの品質である。そのためほとんどの消費者や評論家にとって必要品質は興味の範疇外であり、評価はもっぱら魅力品質に集中する。必要品質の確保は化粧品製造販売元の責任感にすべてがかかっているといっても過言ではない。品質向上剤や品質保持剤という文字に対して負の印象を持ち、こういった成分を使わないことに魅力や価値を感じる消費者がいることは確かだが、その魅力品質にこだわりすぎて必要品質を確保できない化粧品は、より重大でより深刻な問題を引き起こすことになる。必要品質あっての魅力品質であることを化粧品の提供者は常に意識しなければならない。

酸化防止であればBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)ではなくトコフェロール(ビタミンE)を使うとか、防腐殺菌であればパラベン類ではなくフェノキシエタノールを使うなど、品質保持剤に対する否定的な印象に配慮しつつ必要品質を確保する方法はいくつかある。また、化粧品製造販売元は自らの責任をよく考え、いたずらに不安感をあおって必要品質の重要性をおとしめる方法での商品の差別化や広告手法は慎むべきである。

2.3 有効成分・美容成分

化粧品の差別化に必要な成分が有効成分や美容成分である。

各社からさまざまな化粧品が販売されているが、前述の通り化粧品の基本設計は長い歴史の中で、考え方もそれを実現するために使用する成分もある程度決まっている。たとえば化粧水であれば、「うるおいを与え、うるおいを保つ」ことが目的の商品なので、水(うるおいを与える)と保湿剤(うるおいを保つ)の2つで構成するのは必然と言える。そしてそれを実現するために使用する保湿剤は保湿作用に優れたグリセリン、防腐性を高めるBGやDPG、感触を大きく変えるヒアルロン酸Naや糖類やPEGといった組み合わせが定番中の定番となっている。

では各商品の違いはどこにあるのか。商品の特徴や差別化のポイントになるのが有効成分や美容成分と呼ばれる成分である。化粧品の基本機能に「プラスアルファ」する成分と言うとわかりやすいかもしれない。

「この化粧水は化粧水の基本機能に加えて美白の働きを持った成分を配合しているので美白が気になる方におすすめ。」「この化粧水は化粧水の基本機能に加えて炎症を抑える成分を配合しているのでニキビや髭剃り後など炎症が気になる方におすすめ。」「この化粧水は抗シワの働きを持った成分を・・・。」「この化粧水は肌質改善が期待される成分を・・・。」「この化粧水は・・・・・」。このように基本設計に、紫外線防止成分、美白成分、抗炎症成分、抗シワ成分、肌質改善成分、血行促進成分、皮脂抑制成分など消費者の肌悩みや希望にあった特性を有する成分を加えることで、商品に特徴が生まれ、差別化のポイントとなる。

2.3.1 有効成分

医薬部外品において商品の特徴や差別化のポイントとなる成分が「有効成分」である。

医薬部外品とは、特定の成分によって美白、殺菌、血行促進、染毛、殺虫、栄養補給など特定の効能効果を発揮するもので、人体に対する作用が穏やかなものである。特定の成分で特定の効能効果を発揮するという点は医薬品のようであるが、人体に対する作用が穏やかであるため医師等による指導なしに自由に使える点は化粧品のようでもあるため「医薬品と化粧品の中間」と表現されることもある(ただし医薬部外品には殺虫剤や栄養ドリンク剤など化粧品的でないものが含まれているため微妙に変な表現ではある)。

医薬部外品において特定の効能効果を発揮する成分が「有効成分」であり、化粧品的なものでは「肌荒れ改善」「抗炎症」「殺菌」「美白」「抗シワ」などといった効能効果を発揮する成分が知られている。有効成分は、効能効果や安全性に関する膨大な実験データをもとに国による審査を経て承認されるもので、これにはかなりの時間と費用がかかるため新規有効成分の開発は資金や人材が豊富な企業にしかできない。そのため医薬部外品の有効成分は、その成分を開発した企業の技術力そのものを象徴する役割ももっている。

2.3.2 美容成分

化粧品において商品の特徴や差別化ポイントとなる成分が「美容成分」である。

特定の成分が特定の効能効果を発揮する医薬部外品とは異なり、化粧品は製品全体によってその効能効果を発揮するものとされている。そして化粧品の効能効果は昭和36年2月8日薬発第44号薬務局長通知の別表第1(平成23年7月21日薬食発0721第1号医薬食品局長通知により改正)で56項目が用意されている。制度上は、その化粧品が果たす効能効果を56項目の中から選んで消費者に提示することに限られているが、たった56項目では多くの化粧品で説明が同一になってしまい、自社の化粧品の良さや特徴を伝えることは難しい。

そこで、その化粧品の特徴をなにか特定の成分とセットでみせることで消費者により強く印象づけたい、もしくは56項目とは違う働きを特定の成分とセットで消費者に伝えたいといったいくつかの目的があって、化粧品においても特定の成分を特色として際立たせる手法が一般的に行われる。このような医薬部外品における有効成分と同様の役割を果たす成分に決まった呼び方はないが「美容成分」という言い方が一般的である。美白、抗炎症、抗酸化、血行促進、抗糖化、抗シワ・・・56項目にあるものないもの含めて消費者の肌悩みに応じたさまざまな美容成分が提案されている。有効成分と違って効能効果や成分について厚労省による審査承認はないので、良い言い方をすれば自由だが、悪い言い方をすれば無秩序である。業界団体によってしっかりとしたガイドラインが策定され運用されている「紫外線防御(SPF、PA)」と「乾燥による小ジワを防ぐ」は例外と言ってよい。

もちろんこのような手法は行き過ぎれば法の趣旨を損ねることになるので「化粧品における特定成分の特記表示について」(昭和60年9月26日薬監第53号厚生省薬務局監視課長通知)や「化粧品等の適正広告ガイドライン」(日本化粧品工業連合会)などの公的規制や業界自主規制を踏まえた広告活動が切に求められる。美容成分は商品の差別化に直結する成分であるため、基剤、品質向上剤・品質保持剤と比べて非常に情報量が多いものの前述のような事情から情報の質は玉石混交である。日本化粧品技術者会や日本香粧品学会、粧工連、厚労省などの学術的、公的で良質な情報に触れる機会が少ない消費者が、自称専門家などによる質の低い情報に振り回される状況は、誰でも容易に情報発信できるインターネットの普及によってさらに深刻さを増している。

2.4 化粧品の成分と医薬部外品の成分

化粧品の成分と医薬部外品の成分の違いについて簡単に触れておく。

医薬部外品のうち「薬用化粧品」「薬用石鹸」「薬用入浴剤」「パーマ剤」「染毛剤」は目的や使用方法が化粧品的であることや、使用する成分に重複するものが多いこともあって、化粧品と一緒に考えることが多い。しかし、医薬部外品の成分は国による許可制であり、医薬部外品原料規格、日本薬局方、食品添加物公定書などの公定書によって厳密に規格化されている。そのため化粧品と医薬部外品とで同じ名前の成分であっても中身が完全に一致するとは限らない。ほとんどの場面で化粧品の成分と医薬部外品の成分の違いを意識することはないが、それでも化粧品製造販売元の責任で自由に決められる化粧品の成分と、国によって厳密な規格が定められている医薬部外品の成分は本質においては似て非なるものである。

本稿のテーマは「化粧品の成分」であるが、とくに有効成分・美容成分の章では医薬部外品の成分についての解説が多く含まれる。法制度の上では化粧品は製品全体で効能効果を発揮するものとされており、特定の成分が特定の効能効果を発揮するものではない。そのため「どの成分がどんな効能効果を持っているのか」は、医薬部外品の有効成分の解説を基本とし、そこにマーケティング手法として化粧品でも同様の概念が用いられている成分についての解説を加えるという形式になる。他の章では特に注釈のない限り、化粧品の成分についての解説である。


  1. 概要
  2. 化粧品成分の分類
  3. 水性成分
  4. 油性成分
  5. 界面活性剤
  6. 着色剤
  7. 体質粉体
  8. 品質向上剤・品質保持剤
  9. 有効成分、美容成分

1 概要 / 化粧品の成分

かつては国が許可した成分だけが化粧品に配合可能である許可制であった。この制度で新たな成分の配合許可を得るには多くの時間と多額の費用がかかることから成分数はそれほど増えることなく3,000程度に留まっていた。2001年4月に化粧品成分の自由化が実施され、化粧品成分は製造販売元の自己責任において原則自由に決めることができるようになった。それ以降、化粧品成分の数は急速に増え続け、実際に使われたかどうかやどの程度使われているか不明ではあるものの、名称の数だけで言えば15,000にまでなっている(2020年現在)。

ただし自由といっても完全に自由ではなく、ある程度の規制は残っている。規制のほとんどは「化粧品基準」(平成12年9月29日厚生省告示第331号)に記載されているが、まとめるとおおむね以下の通りである。

  1. 医薬品の成分は配合禁止(ただし旧化粧品種別許可基準に収載の成分、2001年4月より前に化粧品の配合成分として承認を受けているものおよび薬食審査発第0524001号「化粧品に配合可能な医薬品の成分について」に収載の成分は、医薬品の成分であってもその前例範囲内で配合可能)。
  2. 生物由来原料基準に適合しない原料、化審法の第一種特定化学物質/第二種特定化学物質、化粧品基準別表第1の成分は配合禁止。
  3. 化粧品基準別表第2に収載の成分は記載の配合上限を守る。
  4. 化粧品に使用可能な防腐剤は、化粧品基準別表第3に収載の成分のみ。
  5. 化粧品に使用可能な紫外線吸収剤は、化粧品基準別表第4に収載の成分のみ。
  6. 化粧品に使用可能な有機合成色素は「医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令」(昭和41年8月31日厚生省令第30号)の成分のみ(赤色219号及び黄色204号については毛髪及び爪のみ)。

化粧品基準別表第1および第2は制限成分の一覧で一般にネガティブリストと呼ばれ、別表第3、第4およびタール色素は許可成分の一覧なのでポジティブリストと呼ばれている。

これ以外にもいくつかの規制があるので完全自由化ということではないが、海外もおおむね日本同様にネガティブリストとポジティブリストの併用による規制になっている。また、国によって具体的な規制内容は異なっているため、輸出入の際には使用している成分やその配合量がその国の規制に準じているかどうかの確認が必要になる。

1.1 自由なので公定規格は存在しない

何を化粧品の成分として使うかは化粧品製造販売元の自己責任において自由に決めることができるようになったということは、別の言い方をすると「どれが化粧品の成分なのか決まっていない」「化粧品の成分が何個あるのか誰にもわからない」ということである。それまで国の責任と管理の下で決まっていた化粧品成分が、製造販売元の自己責任と自己管理に変わったのだから当然ではあるが、2001年4月より前から化粧品技術や薬事の仕事をしている人や、医薬品業界から化粧品に移った人の中にはいまだに慣れなく戸惑う人も多い。

化粧品成分が国による許可制だった時代は、化粧品成分を定義する「化粧品原料基準(粧原基)」や「化粧品種別配合成分規格(粧配規)」といった厳密な公定規格が存在していた。たとえば「オリブ油」については『オリーブの果実を圧搾して得た油で、酸価が1以下、けん化価が186〜194、ヨウ素価が79〜88、不けん化物が1.5%以下、・・・・・・云々の成分を「オリブ油」とする。』のような厳密な規格が国によって定められていた。そのため、たとえオリーブの果実から得た油でも抽出法で得た油はオリブ油ではなかったし、オリーブの果実から圧搾して得た油でも不けん化物を1.6%含んでいる油はオリブ油ではなかった。国が定めた化粧品成分「オリブ油」の規格から外れるからである。

化粧品成分の自由化とは国が化粧品成分を管理しないということであるから、国が化粧品成分を管理するための規格は不要となった。そのため粧原基、粧配規といった化粧品成分の公定規格は平成13年3月31日で廃止となっている。現在の法律では、酸価1.2以下までをオリーブ果実油とするも、酸価0.9以下をオリーブ果実油とするも、抽出法で得た油をオリーブ果実油とするも、不けん化物が何%であってもオリーブ果実油とするも、すべて化粧品製造販売元の自己責任において自由である。オリーブの果実から得た油なら、あとはどんな分析をしてどんな結果になるものをオリーブ果実油とするかといった細かい規格は、それぞれの化粧品製造販売元が法律の範囲内で自己責任のもと自ら考えて決めるのである。

1.2 自由なので化粧品成分の一覧表は存在しない

化粧品成分が国による許可制だった時代は、国が化粧品成分として許可した成分とその使い方をまとめた「種別許可基準」が存在しており、これがおおむね化粧品成分の一覧表とみなすことができた。しかし、化粧品成分の自由化に伴い何を化粧品成分とするかは個々の化粧品製造販売元が自己責任のもとで自由に決めることになったため種別許可基準は廃止になった。そのため現在は化粧品成分の一覧表に該当するものは存在せず、化粧品成分の数は理屈の上では無数に存在し誰も把握できない。

化粧品の業界団体(日本化粧品工業連合会 : 粧工連)が作成している「化粧品の成分表示名称リスト」が、化粧品成分の一覧表であると考えている人もいるがこれは間違いである。粧工連は「この成分に名前を付けてほしい」という申請に対して「名前を付けているだけ」である。安全性、配合の可否についていっさい考慮せず申請があった成分に名前をつけて収載するので化粧品の成分表示名称リストには化粧品に配合禁止の成分がいくつも収載されているし、使う予定はないがとりあえず名前だけでも決めておこうという程度で申請されて収載されている成分もある。化粧品の成分表示名称リストへの収載と化粧品への配合可否が無関係だということは、別の見方をすると化粧品の成分表示名称リストに名前が載っていない成分でも法律に違反してない成分であれば化粧品に配合することは何ら問題ないことでもある。このように化粧品成分表示名称リストには配合禁止成分が掲載されていたり、化粧品に配合されていても掲載されてない成分があるため、このリストで化粧品の成分を正確に把握することはできないし、そもそもそのような目的のリストでもない。

粧工連は化粧品の成分表示名称リストの冒頭に『収載された成分の安全性、配合の可否等については一切関与致しません。』と記載しており、また2019年には加盟企業に対して『「化粧品の成分表示名称リスト」と企業責任について』という文書を発出し、本リストが化粧品成分の許可リストであることを強く否定している。しかしいまだに「表示名称が作成され化粧品原料として公式に認められました」や「表示名称が作成されてないので化粧品に使えない」などといった誤解がくすぶっている。粧工連の命名委員会で汗をかいている委員の方々には申し訳ない言い方になるが、化粧品の成分表示名称リストにはそこまでの権威や権限のようなものはないし、そのような目的で作られているリストでもない。


  1. 概要
  2. 化粧品成分の分類
  3. 水性成分
  4. 油性成分
  5. 界面活性剤
  6. 着色剤
  7. 体質粉体
  8. 品質向上剤・品質保持剤
  9. 有効成分、美容成分