先生のお手本と演奏権料

ヤマハ音楽振興会など音楽教室が結成した「音楽教育を守る会」が、音楽教室での演奏について、JASRACに著作権使用料の徴収権がないことの確認を求めた訴訟で、2月28日東京地裁が請求を棄却した。

おいおいおいおいおいおい、マジかよ。

ピアノ教室の経営者としては、看過できん。

JASRACが楽器教室から演奏権料を徴収するって話を、会話形式にまとめると以下の通り。


JASRAC『楽器教室で先生が生徒にお手本を見せるのは「公衆に対して楽曲を聞かせることを目的とした演奏」なので演奏権料を払いなさい。』

楽器教室『え?生徒って公衆なの?』

JASRAC『はい。入会したり退会したりと不特定の人が出たり入ったりしているので、生徒は不特定すなわち公衆です。』

楽器教室『でも、お手本ってのは楽曲を聴かせるのが目的じゃなくて、演奏の仕方を指導するのが目的なんだけど。』

JASRAC『いえ、我々が楽器教室に送り込んだ潜入調査員は、講師の模範演奏を聴いて「まるで演奏会の会場にいるような雰囲気を体感しました」と裁判で証言しています。先生のお手本は聴かせることを目的とした立派な演奏です。』


JASRACの主張をまとめると以上になる。楽器教室は、公衆に対して楽曲を聴かせることを目的とした演奏を行なっているのだから、それ相応の演奏権料を払いなさい、と。んでもって、東京地裁がこの言い分をマルっと認めちゃった。

おいおいおいおいおいおい、マジかよ。

演奏権が及ぶ範囲がどんどん広がってきて、とうとうお手本にまで演奏権が及ぶとは・・・・これってかなりアブナイ話だよ。これは演奏権が際限なく広がっていくきっかけになるよ。

アブナイ話:その1

たとえば、学校の吹奏楽部が、交通費にもならないわずかな謝礼で外部講師に来てもらってたとする。んで、その講師が練習中にお手本を見せたとする。金額や名目がなんであろうが講師は無報酬じゃないんで、これ、練習のたびに演奏権料の支払いが必要になるってことよ。

講師には「うちの部活には練習のたびに演奏権料を払う余裕なんてないので絶対にお手本は見せないでください」って念押ししないといけないとか、おかしいでしょ。

学校の部活じゃなくても市民楽団とか趣味のサークル活動でも、謝礼をもらった指導者が練習中にお手本をみせるだけでそのたびに演奏権料の支払いが必要になる。これってやりすぎだと思わない?

アブナイ話:その2

音楽教室での先生のお手本に演奏権が及ぶということは、学校の授業での先生のお手本にも演奏権が及ぶってことになる。

JASRACは、学校の授業は「非営利・無料・無報酬」の3条件が同時に成立しているので演奏権が及ばない、という見解を発表しているけど、これはおかしい。学校は非営利法人だから非営利なのはわかる。だが、生徒は学費を払ってるんだから無料じゃないし、先生は給料もらってるんだから無報酬じゃない。明らかに説明に無理がある。

これは要するに、学校の音楽の授業からも演奏権料を徴収するって話にすると世間の納得が得られないから、無茶苦茶な理由で「学校の授業は大丈夫ですよ〜」と言ってるだけ。楽器教室からの演奏権料徴収が軌道に乗ったら、次は部活やサークル活動、その次は音楽学校、最後は普通学校の音楽の授業まで少しずつ対象を広げていくよ、きっと。