NATURAL OR ARTIFICIAL

2006年6月@cosmeビジネスナビというサイトに書いたコラムを加筆修正

 「石油由来ですか?」「合成ですか?」・・・・・・・この言葉に激しく反応した方、ある、そういう質問がよくある、と頭を縦にはげしく揺らしている方が結構いるんではないでしょうか。お客さまからよくある、ほんとうによくある、質問です。そもそも石油は貴重な「天然」地下資源ですとか、もとをたどれば大昔の生物の遺骸なんだから天然だとかそういうことはさておいて(いや、これはこれで根源的で重要な提起なんだけど、それを言ってしまうと今回のコラムはここで終わってしまうからとりあえず無視して)、天然か石油(合成)かにこだわる消費者が量産され続けることにイライラを感じてしまうのは私だけですか?

 資生堂のホームページにあるQ&Aコーナーには『一般に、天然・自然のもの、動・植物系のものは安全で、合成されたものは危険、というイメージがあるようです。しかし、かぶれを引き起こす「うるし」のように、天然成分のなかにも明らかに危険な成分があります。同様に、合成成分にも危険なものはありますが、原料の組成がはっきりしていないものが多い天然成分と比べて、合成成分は原料の組成がはっきりしています。そのため、「肌によくない成分を取り除く」という点では、合成成分のほうが安全性が高いと考えられます。化粧品に配合されている成分は、すべて厳しい安全性の確認が行われたものです。天然成分、合成成分にこだわらず、安心してお使いください。』と書いてあります。これ、非常に中立的でかつ最も真実に近い内容だと私は思うのです。

 唐辛子は天然ですが肌に塗っても安全なんでしょうか?卵は天然ですが卵アレルギーの私の長男に塗っても安全なんでしょうか?食べたら肝臓や腎臓の組織が破壊されて場合によっては3~4日で死に至るドクツルタケというキノコがあるんですが、天然だから安全なんでしょうか? ちょっと考えれば天然だからといって安全だとは限らないというのはわかるはずのに、天然=安全&石油(合成)=危険という図式が成立し続けているのはなんでなんでしょうかね? ブツブツブツ・・・・・

 化粧品が安全であるかどうかは、それが石油(合成)由来なのか天然由来なのかなんていうネタで済む話ではなくて、成分ひとつずつが安全かどうかなわけで、さらに踏み込めば同じ成分でも製剤技術によってだって安全性が変化します。だからこそ私たち化粧品技術者が必要なのに、「安全か安全でないか」がどっかで「天然か天然でないか」にすり替わっちゃうんですよね。不思議だ・・・・。

 でも「天然=安全」市場がある一方で私はもっと論理的妥当性に価値を見いだす市場も存在すると思っているんです。例えば、全ての原料で不明な成分の混在を極限まで排除し、全成分同定済み。中に何が入っているのかを確実に把握できている化粧品。天然とか石油(合成)なんていう次元とは違った価値観で構築する化粧品。どうです? 成分の由来なんてどうでもいいんです。安全性が高く、効果も高く、不純物の混入が極限まで抑えられている高純度な原料だけを使用するんです。そうなると・・・・化粧水なら、水、BG、グリセリン、エタノール、クエン酸Na、クエン酸、DPG、ヒアルロン酸Na、アミノ酸、糖類あたりを主軸にして構成すればできるかな・・・・・って、この構成って化粧水の典型処方じゃん。乳化物ならこれに油性成分としてミネラルオイルやスクワラン、乳化剤にポリグリセリン脂肪酸エステルあたりを追加すればいいんじゃないかな。これで詳細な成分を把握できる化粧品が作れると思います。さらに今流行の「トレーサビリティ」もやっちゃいましょう。化粧品の製造をトレースするか、さらにさかのぼって原料の製造までトレースするかによって難易度は違ってきますが、今回例示した原料なら原料レベルでのトレースもさほど難しくはないでしょう。原料レベルでのトレースを目標にまずは化粧品製造レベルでのトレーサビリティの提供からスタートするのが無難かな。もうここまできたら希望者にはHPLC、GC、GPC、MS、NMRなどを駆使した各原料の同定試験、純度試験、RIPT、コメド、パッチ等の安全性試験の結果をまとめた冊子を有償提供するなんてサービスまでやったらすげえぞ。業界の注目のまと、消費者団体大絶賛でバカ売れ間違いなし・・・・・・ってことはないな。

 この化粧品には『夢』がない。